さやいんげんと春菜の黒ごま和え、モロッコいんげんのごま酢クリーム和え
今日は2種のさやいんげん(隠元豆・いんげんまめ)を、それぞれ趣向を変えてごま和えにします。さやいんげんは未熟なさやを食用にするもので、完熟種子を乾燥させて煮豆や白あん、甘納豆などに利用する「大福豆(おおふくまめ)」、「手亡(てぼう)」、「金時豆」、「うずらまめ」などとは品種が異なります。
さやいんげんは「隠元豆」や「隠元」などと表記されることもあります。隠元禅師(いんげんぜんじ。中国・明末期から清初期の僧)が承応3年(1654)に日本に渡来した際に、すいかやたけのこなどと一緒に持ち込んだ野菜のひとつがさやいんげんだったので、隠元禅師の名がついたといわれます。
(右)モロッコいんげん、(下)スナップえんどう、(左)さやいんげん(どじょういんげん)。さやいんげんはほぼ通年スーパーマーケットなどで売られていますが、旬は5月から9月です。どじょういんげん、サーベルいんげん、ひらざやいんげん、モロッコいんげんなどの種類があります。海外品種では紫色や黄色いものも。
今回は一般的なさやいんげんであるどじょういんげんとモロッコいんげんを使います。どじょういんげんは長さ13〜15cmほどでほんのり甘みがあり、柔らかいのにしゃきっとした歯触りです。見た目がどじょうに似ていることから名づけられました。
モロッコいんげんは幅広く平べったくて、長さ15~20cm、幅1.5~2cmほどです。大きくて堅そうに見えますが、茹でると柔らかくなります。しゃきしゃきした食感で特有の甘みがあり、和えものや炒めもの、揚げものなど様々に料理できます。元々、地中海沿岸地域で食べられていたものが1976年頃、日本に輸入されました。モロッコという名前はモロッコを舞台にした映画『カサブランカ』(マイケル・カーティス監督)にちなんでつけられたそうです。
関西では藤豆をいんげん豆と呼びますが、これはさやいんげんとは別の種類の豆です。また、さやいんげんを三度豆と呼ぶ人もいます。三度豆の名の由来は年に3回収穫ができるためとされますが、実際には年3回も収穫をすることは不可能のようです。一方、関東ではさやいんげんを五月ささげ(五月に採れるささげ)、唐ささげ(中国から来たささげ)と呼んで、ささげと区別する場合もあります。
昔のさやいんげんには堅い筋があり、下処理の際に取っていましたが、現在は品種改良が進んで筋はほとんど取らなくてもよいくらいになっています。
筋が通ってないといえば、最近は優しいだけの男ばかりになってしまい、『カサブランカ』のハンフリー・ボガードのような男にはなかなかお目にかかれなくなりました。頑固で筋は大切にしている私ですが、「君の瞳に乾杯」とはさすがに言えません。「野菜料理で乾杯」(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「さやいんげんと春菜の黒ごま和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・茹でたさやいんげん、焼きなすをそれぞれ美味出汁で洗うことで水っぽさが消え、ごま和えの衣を濃い味にしなくてもよくなる。
・さやいんげんと焼きなすは優しく混ぜる。焼きなすは柔らかいので力が入るとくずれてしまう。
・「モロッコいんげんのごま酢クリーム和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・モロッコいんげんは食べる直前にごま酢クリームで和える。和えてしばらくおくと水分が出て水っぽくなる。
「さやいんげんと春菜の黒ごま和え」(左)
【材料(2人分)】・さやいんげん 50g
・焼きなす 1本 「
焼きなすの醍醐味」参照
・みょうが(せん切りにする) 1.5個 「
みょうがの切り方」参照
・美味出汁 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
・黒いりごま(市販品をいり直す) 15g
・きび砂糖 小さじ1/2
・薄口醤油 小さじ1/2
【作り方】1.さやいんげんは、筋がある場合があるので、念のために1〜2本の両端を折って筋がないか確かめる。筋があれば除く。
2.鍋にたっぷりの湯を沸かし、さやいんげんを入れ1分30秒〜2分ほど茹でて水に放す。冷めたらざるに上げて水気をきり、3cm長さに切る。
3.黒いりごまを香ばしくいり直してすり鉢でする。「
セロリのごま和え」の「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のように、ところどころにごまの粒が残るくらいにすれたら、きび砂糖と薄口醤油を加えてよく混ぜる。
4.焼きなすはヘタを除き、横に半分にした後、縦に一口大に切る。ボウルに入れて美味出汁をかけ3分ほどおいて汁気を絞り、クッキングペーパーで水分を除く。
5.さやいんげんを別のボウルに入れて美味出汁をまぶして洗う。ざるに上げて汁気をきる。
6.3にさやいんげんと焼きなす、みょうがのせん切りを入れ、なすが崩れないように優しく和えて器に盛る。
「モロッコいんげんのごま酢クリーム和え」(右)
【材料(2人分)】・モロッコいんげん 50g
・ごま酢クリーム 適量
作りやすい分量:白ごまペースト(市販品)50g、酢大さじ3、砂糖大さじ3弱
・スライスアーモンド(ローストする) 適量
・青柚子 適量
【作り方】1.モロッコいんげんはほとんど筋がないが、まれに筋がある場合もあるので、1〜2本の両端を折って筋がないか確かめる。筋があれば除く。
2.鍋にたっぷりの湯を沸かし、モロッコいんげんを入れて2分〜2分30秒茹でて水に放す。冷めたらざるに上げて水気をきり、2cm四方くらいになるように切る。
3.ボウルにモロッコいんげんを入れ、ごま酢クリームを加えて和える。器に盛ってスライスアーモンドをのせ、青柚子の皮の部分のみをおろし金でおろしてふりかける。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。