5月の野菜本膳、ゆばの蒲焼き、利休麩(りきゅうふ)
5月の野菜本膳を紹介します。5月にお教えしたレシピを中心に組んでみました。献立は飯:
碾茶(てんちゃ)飯、汁:
新ごぼうの味噌汁、菜盛り椀(さいもりわん):
春若いも実山椒味噌かけ、ゆばの蒲焼き(本日紹介します)、
おかひじきの梅酢和えになります。
もうまもなく6月、日差しの強い日も増え、磯遊びや川遊びに出かけたくなります。今日は水にちなんだ青海波(せいがいは)に玄武(げんぶ)をあしらった文様の本膳皆具(かいぐ)を使いました。
青海波は半円を重ね鱗状に並べて「波」を表し、無限に広がる波に未来永劫続く幸せと平安の願いが込められています。
玄武は中国古代の想像上の動物で、東西南北の四方を青竜(せいりゅう)、白虎(びゃっこ)、朱雀(すざく)、玄武の四神がそれぞれ守護していると考えられました。玄武は北方を守護する黒い霊亀で、水神ともされました。
今日は菜盛り椀の一品、ゆばの蒲焼きを紹介しましょう。比叡山延暦寺山麓の坂本という門前町に「山の坊さん何食うて暮らす、ゆばの付け焼き(ゆばの蒲焼)、定心坊(じょうしんぼう)」という童歌が残っています。「
汲み上げゆばとゆり根のあんかけ」でもお話ししましたが、質素を旨とする精進料理において、畑の肉と呼ばれるたんぱく質豊富な大豆を原料とするゆばは、大変重宝されました。
定心坊とは大根の漬けもののことです。一般的に大根の漬けものはぬかと塩で漬けますが、定心坊は稲わらで漬けたようです。比叡山中興の祖と言われる元三慈恵大師良源(がんざんじえだいしりょうげん)(912〜985)の考案によるもので、良源が住んだ庵「定心坊」にちなんで命名されました。元三大師は「すむつかり」「しみつかれ」(「
しみつかれ」)の考案者ともいわれます。
精進料理によく使われるたんぱく質に富むもう一つの食材、利休麩の調理法も紹介しましょう。利休麩は揚げて煮込んだ丸い生麩で、茶懐石にもよく使われます。以前は一般的に「大徳寺麩(だいとくじふ)」と言いましたが、京都の精進料理の老舗、大徳寺一久さんが商標登録されたので、今は「利休麩」と呼ばれます。もどき料理ではありませんが、肉のような食感です。味をつけた市販品が多いですが、概して味が濃いので、丸い生麩を素揚げした丸揚げ麩を家庭で炊いたほうがおいしいでしょう。
「山の坊さん何食うて暮らす、ゆばの付け焼き、“定心坊”」を初めて聞いた際、若かった私は由来もわからず、さすが精進料理、“低脂肪”と聞き間違えました(笑)。ゆばの蒲焼きや利休麩をおいしく作るには、低脂肪ながらも油脂の上手な使い方がポイントになります。ぜひ、実践して覚えていただければ幸いです。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「ゆばの蒲焼き」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・ゆばは新しい揚げ油を使い、高温で表面のみを揚げて固める。
・油抜きはせずに炊く。炊いている途中で浮いてくる油をすくって除く。
・花山椒の風味と刺激で味を引き締める。手に入らなければ粉山椒をかける。
・「利休麩」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・丸生麩を素揚げした後、油抜きをする。熱湯をかけるやり方ではなく、沸いた湯の中に入れて木べらなどで押して、吸った油分を押し出す。
・生のうどの食感と風味が、しっかりした味の利休麩と合う。
・辛子麹は利休麩全体にかけるのではなく、少量つけて辛みをアクセントにして楽しむ。
「ゆばの蒲焼き」
【材料(3〜4人分)】・引き上げゆば(5〜6枚重ねて1束にしたもの) 1束(170g)
・揚げ油 適量
・出汁 400cc
・日本酒 大さじ1
・薄口醤油 大さじ1と1/4
・みりん 大さじ3/4
・花山椒の辛煮(なければ粉山椒をふりかける) 適量 「
豆腐田楽4種」参照
【作り方】1.引き上げゆばに厚みがない場合は2つ折りにして押さえ、8mm〜1cmほどの厚みにする。
2.フライパンに揚げ油を入れ、185℃に熱する。1を入れて両面をきつね色に揚げる。クッキングペーパーの上に広げて余分な油を除く。
3.鍋に出汁と調味料をすべて入れて火にかける。沸いたら2のゆばを入れて、弱火で5分ほど炊く。途中で浮いてくる油をていねいにすくって除く。火からおろして、そのまま20分以上味を含ませる。
4.3のゆばを引き上げ、網にのせて余分な汁気をきる。予熱したグリラーかオーブントースターで、途中で煮汁を刷毛で塗りながらきれいな焦げ目がつくくらいに焼く。
5.一口大に切って器に盛り、花山椒の辛煮をのせて供する。
「利休麩」
【材料(5個分)】・丸生麩(丸揚げ麩でもよい) 5個(250g)
・揚げ油 適量
・出汁 300cc
・日本酒 大さじ2
・濃口醤油 大さじ1と1/3
・みりん 大さじ1
・砂糖 大さじ1
・みょうが 適量
・青じそ 適量
・紫芽じそ 適量
・うど 12cm
・辛子麹(塩麹1:練り辛子1) 適量
※市販品の塩麹は商品により塩分濃度がかなり違う。塩分が高くないものを用いる。
【作り方】1.フライパンに揚げ油を入れ、180℃に熱する。丸生麩は切らずにそのまま入れて箸で回しながら、表面が茶色になるくらいに揚げる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真参照。
2.1を油抜きする。揚げた丸麩を半分に切り、鍋にたっぷりの湯を沸かした中に入れる。木べらやフライ返しなどで利休麩を数回押して、中の吸った油分を押し出す。湯から引き上げ水に放し、冷めたら水気をよく絞る。
3.2を鍋に入れ、出汁とすべての調味料を加えて火にかける。沸いたら中火にして煮汁を煮つめながら利休麩にからめていく。煮汁が少なくなってきたら、だんだん火を弱める。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のように煮汁がなくなったら火からおろす。
4.辛子麹を作る。塩麹と練り辛子を同量ずつボウルに入れてよく混ぜる。
5.みょうがは薄めの小口切りにする。青じそは8mm四方に切る。ボウルにみょうがと青じそ、紫芽じそを入れて混ぜる。水でさっと洗ってざるに上げて水気をよくきる。
6.うどは茎の部分を使う。皮を厚めにむいて1cm×3cmの2mm厚さに切る。水でさっと洗ってクッキングペーパーで水気を除く。
7.3を4等分してボウルに入れ、うどを加えて混ぜる。5と一緒に器に盛って辛子麹を添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。