プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> もやしと豆苗(とうみょう)の味噌汁、赤芽じそ飯、甘長唐辛子炒め煮・生姜味噌炒め
もやしは緑豆などを発芽させたもので、貝割れ菜(「
貝割れ菜のカナッペ」)や豆苗と同じくスプラウトのひとつです。しゃきしゃきした食感で、和食や中華など様々な料理に使われます。低カロリーでヘルシー、しかも安価なのがうれしいですね。
もやしは種子本来の栄養素に加えて、発芽・成長する過程で新たに別の栄養素(アミノ酸、ビタミンC)を生成するという特殊な野菜です。輸入した緑豆やブラックマッペ、大豆などを原料とし、国内の工場で軟白栽培します。天候に左右されず、安定した供給が可能なので価格変動も少ないのです。
平安時代の『本草和名(ほんぞうわみょう)』や江戸時代の『農業全書』にも記載があり、昔からもやしを食べる習慣があったようです。第二次世界大戦後、タイやミャンマーからブラックマッペが輸入されたことでもやしが普及し始め、1980年代後半に中国から緑豆の輸入が増加すると、緑豆もやしが主流となりました。
(右)豆苗。(左上)緑豆もやし。(左下)大豆もやし。太くて白く、張りのあるもやしを選び、変色や、折れが目立つものは避けます。大豆もやしは豆が開いていないものがよいでしょう。ひげ根は短めのほうがよく、そのまま調理して構いませんが、口あたりをよくしたい場合は取り除きます。
もやしは光があるところよりも、暗闇で発芽させたほうがみずみずしく太く大きくなります。暗闇で光を求めて上へ上へと急成長し、その過程で水分をどんどん吸収してしゃきしゃきとした食感を生みます。この食感や旨み、栄養素を損なわない最大のコツは、短時間加熱です。
今回はもやしと豆苗の味噌汁と赤芽じそ飯、出始めの甘長唐辛子の炒めものもおかずにつけます。どれも若くエネルギーあふれる食材です。もやしっ子という例えもある一方で、もやしは暗闇の中で光を求めて上へ上へと急成長し太く大きくなるという現実もあります。光を求めてというのが大切なのですね。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「もやしと豆苗の味噌汁」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・
シャキシャキ食感や旨み、栄養素を損なわないようにさっと短時間加熱する。
・
味噌汁のコツは「沸かさない」「煮えばなを手早く供する」「温め直さない」。「
ゆり根白味噌仕立て」も参照。
「赤芽じそ飯」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・
ご飯は炊き立てを。
・
食べる直前にご飯の甘みを引き出す程度の
塩をほんの少しふり、赤芽じそをのせる。
・「甘長唐辛子炒め煮・生姜味噌炒め」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・
油で炒めることで甘長唐辛子自体の甘みを引き出し、調味の甘みは控えめにする。すき焼き割り下は通常より砂糖を少なめに。生姜味噌も加えすぎない。
・旬の走りの甘長唐辛子は穏やかな辛みだが、辛みが得意でない場合は種を除いて使うとよい。
「もやしと豆苗の味噌汁」(右)
【材料(2人分)】・もやし 30g
・豆苗 15g
・油揚げ 1/4枚
・出汁 340cc
・信州味噌(好みの味噌でもよい) 適量
・いりごま(市販品をいり直す) 少々
【作り方】1.もやしはそのままでもよいが、口あたりをよくしたい場合はひげ根を取り除く。豆苗は2.5cm長さに切る。油揚げは5mm幅×3cm長さに切る。
2.鍋に出汁を入れて火にかけ、80℃くらいになったら信州味噌を溶き入れて、味噌汁が90℃を超えたくらいで豆苗と油揚げを入れ、火を弱める。2秒おいてもやしを入れ、さらに3秒たったら火からおろす。椀にもやしと豆苗、油揚げを盛って汁を注ぎ、いりごまを散らして供する。
「赤芽じそ飯」(左)
【材料(3人分)】・米 2合
・水 360cc
・塩 少々
・赤芽じそ 適量
【作り方】1.米は炊く30分以上前にとぎ、10分ほど水につけた後、ざるに上げておく。
2.炊飯器に米と水(飯の炊き上がりの柔らかさの好みで量を加減する)を加えてスイッチを入れる。
3.炊き上がったら、飯をふんわりと混ぜて碗によそう。塩を少々ふりかけ、赤芽じそをのせて供する。
「甘長唐辛子炒め煮」(右)
【材料(2人分)】・甘長唐辛子 6本
・白ねぎ 6cm
・サラダ油 小さじ1と1/2
・ごま油 小さじ1と1/2
・すき焼き割り下 大さじ2
出汁2:日本酒1:濃口醤油1:砂糖0.3の割合
【作り方】1.甘長唐辛子はヘタを外して1cm長さに切る。白ねぎは半分まで切れ目を入れて開き、5㎜四方に切る。
2.フライパンを火にかけ、サラダ油とごま油をひく。甘長唐辛子と白ねぎを入れて中火で炒める。甘長唐辛子に火が通ったらすき焼き割り下を加えて全体にからめる。「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真のように、汁気がなくなったら火からおろし、器に盛って供する。
「甘長唐辛子生姜味噌炒め」(左)
【材料(2人分)】・甘長唐辛子 6本
・サラダ油 小さじ1と1/2
・ごま油 小さじ1と1/2
・生姜味噌 35〜40g 「
生姜味噌」参照
・青じそ 5〜6枚
・揚げ油 適量
【作り方】1.甘長唐辛子はヘタを外して1cm長さに切る。
2.揚げ青じそを作る。青じそは枝を切り繊維に沿って細いせん切りにする。フライパンで揚げ油を160℃弱くらいに熱する。青じそをほぐして入れ、少し透明感が出てきたら箸で混ぜて均一に揚げる。泡がほとんど出なくなる直前で油から引き上げ、クッキングペーパーに広げて余分な油を除く。
3.フライパンを火にかけ、サラダ油とごま油をひく。甘長唐辛子を入れて中火で炒める。甘長唐辛子に火が通ったら、生姜味噌を加えて全体に均一にからめる。火からおろして器に盛り、揚げ青じそを添えて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗