プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
一覧はこちら>> 苦瓜と切り干し大根黒酢和え、苦瓜と豆腐の味噌漬け和え
酢の効能や夏場の酢のもののコツを「
初夏の酢のもの3種」でお話ししましたが、今回は酢についてお話しします。酢は穀物や果実などを原料に、酵母によるアルコール発酵、次いで酢酸菌による発酵により、主成分である酢酸が作られます。酢には酢酸の単調な酸っぱさだけでなく、その奥に原料由来の風味や旨みが存在しています。
この連載では、材料に酢と表記することが多いのですが、酢には様々な種類があります。伝統的酢である米酢は濃厚な風味でこくがあり、発酵臭が強いという特徴があります。純米酢(米のみを原料とする)と米酢(米以外の穀物やアルコールを加える)があり、純米酢は米酢に比べて風味やこくが勝っています。穀物酢は値段が安く、米・麦・酒かす・とうもろこしなどを原料とし、旨み・甘み・香りが米酢に比べて弱めです。
黒酢は米酢に属しますが、長期発酵のため琥珀色をしており、まろやかな酸味で旨みや甘みが強く、風味が濃厚です。これまでも「
金時にんじんの梅煮、黒酢南蛮漬け」、「
色紙きぬさやの酢のもの」、「
春キャベツの辛子和え」で黒酢を使っています。
黒酢は今では広く知られるようになりましたが、市場に多く出回り始めたのは近年の健康食品ブーム以降のことです。鹿児島県霧島市福山町が生産地として有名で、約200年前から作られています。江戸時代、福山町は中国や琉球の産物が行き交う中継地で、中国の商人が香醋(こうず。もち米を原料とする酢)を伝えたのが始まりとされます。
米酢は精米を使いますが、黒酢は玄米を原料とし、薩摩焼のかめ壺(アマン壺とも呼ばれる)を使って、1年半〜3年かけて発酵、熟成させます。一般的な食酢が4か月程度でできるのに対し、長い時間をかけるため、アミノ酸が豊富に含まれます。
「
せりと切り干しのはりはり漬け」では、新物の切り干し大根の風味と食感を生かして、あっさりと土佐酢に漬けましたが、新物だった切り干し大根も今は時間が経ち、ものによっては少し匂いがするかもしれません。そこで旨みや甘みも強い黒酢を使って風味よく、まろやかな酸味に仕上げます。もう一品は熊本県の豆腐の味噌漬けで苦瓜を和えます。苦瓜、黒酢、豆腐の味噌漬けと南国情緒あふれる料理で、梅雨や暑さに負けず、今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「苦瓜と切り干し大根黒酢和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・苦瓜の苦みを減らしたい場合は、スプーンで種と一緒にわたをしっかりこそげ落とす。
・和えものや酢のものに使う場合は、苦瓜を薄めに切った後に少量の塩をまぶして5〜10分ほどおき、さっと茹でて水にさらし、水気を除いて使う。苦みが好きな場合は塩をせずに茹でる。ただし茹で過ぎると栄養分が流失し、食感も失われるので注意。
・かつお節(糸花削り)を加えると苦瓜の苦みと旨みがまとまり、全体の旨みとこくが一気に増幅する。
・揚げ玉を添えることで油分と食感が加わりおいしくなる。
・「苦瓜と豆腐の味噌漬け和え」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・苦瓜は2mm厚さの薄切りにして強火で短時間加熱すると苦みが抑えられる。苦味が好きな場合は5mmほどの厚さに切る。
「苦瓜と切り干し大根黒酢和え」(左)
【材料(2人分)】・苦瓜 1/5本(25g)
・切り干し大根 50g(水でもどして絞ったもの)
・塩 少々
・黒酢の土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:黒酢1の割合
・かつお節(糸花削り。かつお節を細かくもんだものでもよい) 適量
・揚げ玉(市販品) 適量
【作り方】1.苦瓜は縦半分に切り、スプーンで種を除く。2mm厚さに切る。少量の塩をまぶして5〜10分ほどおき、さっと茹でて水にさらし、ざるに上げる。クッキングペーパーに包んで水気を除く。
2.ボウルに水をたっぷり注いで、切り干し大根を入れてほぐし、付着したごみなどを落とす。下に沈んだごみが混ざらないように、両手で少しずつすくってざるに上げる。ボウルに再度、たっぷりの水を入れて切干し大根を入れ、3〜5分ほどつけてざるに上げる。何回かに分けて両手でぎゅっと握って水気をしっかり絞っておく。切り干し大根はもどすと5倍くらいの重量になる。食べやすい長さに切り、黒酢の土佐酢に10分ほど漬ける。
3.1に黒酢の土佐酢を少量まぶして洗い、酢を絞る。2を黒酢の土佐酢から上げて酢を絞る。ボウルに苦瓜と切り干し大根を入れてほぐしながら、全体が均一になるように混ぜる。かつお節(糸花削り)を適量加えて和え、器に盛る。揚げ玉を散らして供する。
「苦瓜の豆腐の味噌漬け和え」(右)
【材料(2人分)】・苦瓜 60g
・サラダ油 小さじ1
・豆腐の味噌漬け 18〜20g
・けしの実(好みで) 少々
【作り方】1.苦瓜は縦半分に切り、スプーンで種を除く。2mm厚さに切る。
2.フライパンを強火にかけてサラダ油をひく。苦瓜を入れて強火で1分弱炒めてボウルに移す。
3.2に豆腐の味噌漬けを加えて和え、器に盛り、けしの実をかけて供する。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗