プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。
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冷やし素麺がおいしくなる季節がやってきました。つるっとのど越しがよく、暑い日にぴったりの素麺は、昔も今も変わらず小麦・塩・水・少量の綿実油というシンプルな原料でできています。栄養が偏らないように、野菜を上手に組み合わせてヘルシーに仕上げましょう。暑い夏も野菜と一緒なら箸が進みます。
素麺は、7世紀頃に中国から伝わった小麦粉などを練って延ばした「索餅(さくべい)」を起源とする、という説が有力です。14~15世紀に入ると、記録に「索麺」「素麺」の文字が登場し、室町時代にはそうめんという読み方が普及していったと考えられます。
似ているものにひやむぎがありますが、その起源とされる「切麦(きりむぎ)」という言葉も室町時代に登場し始め、後に現在のような細めの切り麺となりました。江戸時代には広く食べられ、熱い汁で食べるのが「あつむぎ」、水で冷やして食べるのが「ひやむぎ」となったようです。
素麺は糸のように細く延ばして仕上げますが、ひやむぎはうどんのように切って作ります。明治時代に製麺機が発明されると、素麺もひやむぎもうどんも刃の間隔を調整するだけで作れるようになりました。製法による違いが曖昧になったため、JAS規格による太さを基準として、素麺は直径1.3mm未満(手延べの場合も1.3mm未満)、ひやむぎは直径1.3mm以上1.7mm未満(手延べの場合は1.7mm未満)、うどんは直径1.7mm以上(手延べの場合も1.7mm以上)と定められました。
料理屋の中には2回梅雨を越した「古物(ひねもの)」や、3回の梅雨を越した「大古物(おおひねもの)」と呼ばれる素麺を使う店もあります。素麺は自体に含まれる水分のため、高温多湿の梅雨期を越すと一種の発酵をしてコシが強く、茹でのびしにくい麺に変化します。
お中元などでたくさんもらい、食べきれなかったら保存して古物にするのもいいですね。非常に湿気をきらうので、台所や床下収納庫などの湿気がこもりやすい場所は避け、湿気が少ない暗い場所で常温保存してください。他のにおいを吸収しやすいので、においの強いものと一緒に置かないようにします。
氷水につけたまま食卓に素麺を出すのは絶対にやめてください。水を吸って食味を損ないます。冷やしながら食べたいのであれば、網などを敷いて水が切れるようにした砕氷の上に盛ります。盛る際は全部一緒に盛るのではなく、2口分ずつくらいにまとめて盛ると箸で取りやすくなります。
「
夏野菜の揚げびたし、南蛮漬け」でもお話ししたように、なすを揚げびたしにした後の漬け出汁は、浮いた油を除けばそのまま素麺出汁にすることもできます。アスパラガス、ピーマン、パプリカ、オクラ、冬瓜、れんこん、かぼちゃなど、他の夏野菜を揚げびたしや南蛮漬けにして添えてもよいでしょう。
温かくして食べる煮麺(「
オクラ梅若煮麺」)のコツは既にお教えしていますので、今回は「この素麺おいしい! 何か変えた?」と家族の皆さまに絶賛してもらえるコツを紹介します。今日も野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「冷やし素麺」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・大きな鍋に3L以上の湯を沸かし、強火のまま泳がせるようにして、箸でかき混ぜながら茹でる。少ない湯で茹でると、くっついて団子状になる恐れがある。
・茹でた素麺はざるに上げ、あらかじめ用意した大量の水につけて、流水を注ぎながら箸で混ぜて冷ます。水を吸収しないように手早く冷ます。
・冷めたら流水を注ぎながら、水の中で両手ではさんで手早くもみ洗いし、別で用意した氷水につけて急冷し、ざるに上げてしっかり水きりする。
・辛みのあるみょうがや生姜、旨みの海苔、香りの青じそや青柚子、酸味の梅干し、旨みと食感のいりごまなど、特徴が違ういくつかの薬味を用意して食べ飽きない工夫をする。
・薬味は出汁に入れてもよいが、薬味の種類が多いと味や風味が混ざってしまうので、食べる度に素麺にのせるとよい。
「冷やし素麺」
【材料(2人分)】・素麺 3〜4束(好みで増減)
・美味出汁 適量
出汁4:濃口醤油1:日本酒1:みりん0.8の割合
・甘露しいたけ(2〜3mm幅に刻む) 適量
「
きゅうりとしいたけの合い混ぜ」参照
・みょうが(せん切り) 1個
「
みょうがの切り方、甘酢漬け」参照
・青じそ(せん切り) 6枚
・オクラ(茹でてせん切り) 2〜3本
「
オクラと長いもの梅和え」参照
・いりごま(市販品をいり直す) 適量
・梅干し(種を除いて粗めに刻む) 適量
・なすの揚げびたし 1〜2本分
「
夏野菜の揚げびたし、南蛮漬け」参照
【作り方】1.大鍋に3L以上の湯を沸かして素麺をパラパラと入れる。強火のまま泳がせるようにして箸でかきまぜながら茹でる。茹で時間は素麺によって違うので表記を参考にする。
2.あらかじめ2つの大きなボウルに冷水を用意する。茹で上がった素麺をボウルに入る大きさのざるに上げて、1つ目のボウルにつけ、流水を注ぎながら箸で混ぜる。すぐにざるごと水から上げて2つ目のボウルに移し、流水を注ぎながら混ぜて手早く冷ます。粗熱が取れたら流水を注ぎながら、水の中で両手ではさんで手早くもみ洗いしてぬめりを流す。別で用意した氷水につけて急冷し、ざるに上げてしっかり水きりする。
3.冷やしておいた器に2口分ずつくらいにまとめて盛る。甘露しいたけとなすの揚げびたし、オクラのせん切りを添える。みょうが、青じそ、梅肉、いりごまを薬味として散らす。おろし生姜を加えたり、青柚子の皮の部分のみをおろし金で削ったものをふりかけてもよい。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。 六雁(むつかり)
榎園豊治さんプロフィール銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。
東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:
http://www.mutsukari.com連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。 文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗