次の九州は“美味しい”を訪ねて 第4回(全23回) 佐賀県と長崎県は2022年9月に西九州新幹線の開業を控え、旅の目的地として再び注目が集まっています。今回は新幹線が走るエリアを軸に「美味しい」をキーワードに探訪しました。
前回の記事はこちら>> 香ふく(雲仙温泉)
天ぷらは手前から岩崎政利さんの伏見甘長とうがらし、津村義和さんのおかひじき、小浜町ミヤタファームのビーツ。オール島原半島の旬を“究極の蒸し料理”天ぷらで
「雲仙の食が近年全国的に注目されるようになったのは、在来種の採種農家として有機農業に取り組む岩崎政利さんの存在が大きな理由です。
修業先から地元に戻り2~3年経った頃、ご縁をいただいて初めて岩崎さんの“黒田五寸人参”を食べたときの衝撃は忘れられません。とにかく風味が濃くて甘くて!」と語る雲仙温泉の旅館「福田屋」の料理長・草野 玲さん。
「野菜を育てる過程で花やさやにもよい風味があることを知りました。畑から摘んでお客さまにも楽しんでいただいています」と草野料理長。その出会いをきっかけに、料理への向き合い方が一変したといいます。地元の野菜勉強会や研究会に出て生産者たちと交流を深め、料理人の仕事の傍ら農業にも着手。
「社長に直談判をして耕運機を購入し“福田屋ファーム”を開きました」と、日に焼けた顔で笑います。
凄腕の生産者や自家ファームから集まる野菜の味の濃さを、より楽しんでもらえるようにと旅館の一角に開いたのがここ「香ふく」です。ネタ箱にはつやつやと輝く野菜、有明海や橘湾からの魚介類。
手前から橘湾の鮑、自家製からすみ、島原・深江の車海老、有明海のあなご、橘湾のえたり(かたくちいわし)、対馬の赤むつ、島原のがんば(ふぐ)。長崎県がお魚天国であることを物語るラインナップ。ころもに使う小麦粉は南島原の「ミナミノカオリ」。太白ごま油の揚げ油にも地元の椿油を加えます。橘湾で水揚げされたかたくちいわしの煮干しでとっただしでの天つゆや小浜の塩……。ほぼオール島原半島の天ぷらをいただきながら、食材のエピソードを聞くのも楽しい時間です。
「ころものなかで素材自身が出す水分で蒸し上がる天ぷらは、素材の美味しさを楽しむ究極の調理法。ここでしか体験できない記憶に残る料理を目指しています」と話す草野さんは、今日も元気に畑と厨房を往復しながら美味を追求しています。
茨城から移住し、就農した津村義和さんご夫妻(左)が営む雲仙市瑞穂町の「雲仙つむら農園」にて。草野料理長は仲間の農園を訪ねて情報交換を欠かさない。津村さんは地域の土壌や気候を研究し、無農薬・無肥料の有機農業に取り組む。野菜は全国発送にも対応。下のフォトギャラリーで詳しくご紹介します。 Information
香ふく
長崎県雲仙市小浜町雲仙380-2 雲仙福田屋内
- 昼の特製天重御膳3850円、夜コース1万6500円 要予約
撮影/本誌・坂本正行 取材協力/長崎県 九州観光機構 九州旅客鉄道
『家庭画報』2022年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。