驚きと感動の“美味逸品” 第12回(全29回) 料理は、言葉より雄弁にその国のことを物語ります。駐日大使公邸のおもてなしを拝見し、世界各国の料理をレストランで楽しみ、珍しいスパイスやハーブに出合える食材店を巡る――私たちの周りにたくさんある“日本の中の外国”へご案内します。
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世界一の美食都市に数えられるだけあって、東京には食の世界一周旅行ができてしまうほど、数々の各国料理店が存在します。世界のグルマンから熱視線が注がれるレストランから在日外国人が母国の味を懐かしむスポットまで。美味なる世界旅行へ、出発進行!
ペルー
MAZ(マス)東京・紀尾井町
海抜3260M・アンデスの森もともとはアンデスで収穫を祝う神聖な儀式として行われていた、熱した土中で根菜を焼き上げる「ワティア」。そこから着想を得て、アンデスでは薬として食べられる「チャコ」と呼ばれる食用土で窯を作り、千葉県産のペルー原種のじゃがいもを焼き上げた。世界が注目するガストロノミーの最先端が上陸
ペルーといえば「マチュピチュ」や「ナスカの地上絵」などの世界遺産で知られてきましたが、そんなペルーの食が今、注目を集めています。その理由をひもとく手がかりになりそうなのが、7月に「東京ガーデンテラス紀尾井町」にオープンした、「マス」です。
ロンドン発のレストランランキング「世界のベストレストラン50」で今年世界第2位に輝いた、ペルー「セントラル」のヴィルヒリオ・マルティネス氏が監修。ペルーの風土や生産者と訪れた人をつなぐ「語り部」として誕生したこの場所は、ペルーの文化と歴史の物語に溢れています。
国土に約6000メートルの標高差があるペルー。マスで提供されるのは「高度メニュー」と呼ばれ、9皿のコースが、それぞれ異なった高度の生態系を代表しています。
例えば、とうもろこしやじゃがいもなどの原産地といわれている高山のアンデス、多様な生物の宝庫である低地のアマゾンなど、それぞれの高度で生産される食材だけを組み合わせ、その土地の風景までも再現したメニュー。
ペルーから届く食材と日本の新鮮な野菜や魚介類、肉などを使い、味覚や嗅覚のみならず、触覚や視覚まで総動員して、未知の世界の情景を私たちの心に描き出します。
水深-14M・海霧はっとするような青は、藻の一種、スピルリナの天然の色をpH調整で変化させ、乾燥たこのだしとともに泡状のソースに。たこのすみを使った黒い塩メレンゲの下に、グリルしたたこを忍ばせて。高度別に組み立てたメニューでペルーの多様な生態系を体験
マスの厨房を司るのは、「セントラル」のヘッドシェフも務めた、サンティアゴ・フェルナンデス氏。
マルティネス氏の右腕、サンティアゴ・フェルナンデス氏。「ペルーでは、標高によって、違う季節が同時に存在しますが、日本には一年を72候で分けてとらえるような、毎日移り変わる繊細な季節感があります。ペルーと日本の食材を一緒に使うことで、その両方の多様性を取り込んだ、新しい料理を生み出したいのです」と意気込んでいます。
作り手の顔が見える食材や器、インテリアを通して伝えたいのは、多様な生物が共に生きる、豊かな未来のあり方です。異なる標高という多様性を持つペルーと、季節感という多様性を持つ日本をハイブリッドにした、ユニークな料理は、私たちに新しい気づきをもたらしてくれそうです。
下のフォトギャラリーで詳しくご紹介します。 Information
MAZ
東京都千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町3階
- 毎月1日の正午より翌月分の予約を受け付け コース2万4200円
撮影/阿部 浩 取材・文/仲山今日子
『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。