春、日本列島はいちご色に染まる 日本全国いちご図鑑 第9回(全13回) 現在、品種登録されているいちご品種は全国で300を超え、作付けされる主要品種は70以上。これだけ多種多様ないちごを味わえるのは世界において日本だけかもしれません。晩秋から春にかけて、日本列島を席巻する甘酸っぱい赤い宝石「いちご」の魅力を深掘りします。
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注目のいちご生産者を訪ねて
バスケットの中で艶やかな輝きを放つ、摘みたての「あまりん」と「かおりん」。ともに2016年に誕生した、埼玉県のオリジナル品種だ。和銅農園(埼玉・秩父)
別格の華やかさで大人気の「あまりん」
「最近のいちごの品種の中ではいち押し」と、パティシエの江森宏之さんが惚れ込む「あまりん」を求めて訪れたのは、和銅農園です。「あまりん」は栽培数が少なく、なかなか市場に出回らないことから「幻のいちご」とも。同時期に誕生した「かおりん」とともに、埼玉県内の農家でのみ栽培が許されています。
語らいながら「あまりん」を収穫する、田口さん(左)と江森さん。農園主の田口直樹さんの案内でハウスに入ると、そこは甘やかな「あまりん」の香りでいっぱい。摘みたてを口に入れれば果汁がじゅわっと弾け、豊かな香りとまろやかなおいしさがいっぱいに広がります。「『あまりん』は他の品種に比べて実る数が少ない分、味が凝縮されておいしくなるんです」と、田口さん。
「『あまりん』は、とにかく香りが華やか」と、江森さん。有機培土やオリジナルの堆肥、イオン水を使って管理を行き届かせた農法とともに、秩父ならではの昼夜の寒暖差やきれいな水と空気が、健康でおいしいいちごを育むといいます。
摘みたていちごでタルトを作る江森さん。この日は、江森さんが「ずっとやってみたかった」という、摘んだいちごをその場でたっぷりのせた特別なタルトを製作。
右は「あまりん」のタルト、左は「かおりん」のタルト。「あまりん」は香りの芳醇さはもちろん、酸味が控えめで糖度が高く、うまみも強いのが魅力。実の質感もやわらかい。「かおりん」はいい意味で食感があり、甘みも酸味もしっかりしていて濃厚な味わい。「あまりん」の力強いコクとみずみずしさが、リッチなタルトとカスタードベースのクリームに負けることなくマッチして、「最高においしい!」と、田口さんも江森さんも大満足の仕上がりとなりました。
和銅農園のキッチンカーもいちご色。 撮影/本誌・西山 航 取材・文/瀬戸理恵子
『家庭画報』2023年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。