【2月の美味案内】
まだ間に合う!
美味とともに冬の名残を楽しむ
(取材・文/西村晶子)
野菜が豊富な京都には質の高い漬物がいろいろあります。1年中店頭に並ぶものが昨今多くなっていますが、いまだ冬を旬とするのが“千枚漬”(せんまいづけ)と“すぐき”。この2つは、京都の冬の食卓には欠かせない味です。
京都には、千枚漬やすぐきを製造するお店が数多くありますが、今も独自の味と製法を守り続けている1軒が、創業180年の「村上重本店」。店先で量り売りする様子は京都の冬の風物詩であり、袋入りのものは京土産に、樽詰めのものはお遣いものとして重宝されています。
京都人が愛してきたおいしさの秘密をうかがいました。
千枚漬に壬生菜(みぶな)を添えると見た目も美しい。スモークサーモンやからすみを挟んだり、酢飯と合わせて漬物寿司にしても。1パック1000円。11月~翌2月頃まで販売。1.繊細で風味豊かな冬だけの生鮮漬物「千枚漬」
千枚漬はお店によってあっさりめ、甘めと少しずつ味が異なり、ここ村上重の千枚漬はかぶらの甘みと昆布のうまみが感じられる上品な味わい。聖護院かぶら、昆布、塩で仕込んでいて「塩加減」「重し加減」「気候加減」にこだわりながら家伝の味を守っています。
漬物は袋詰めにしたものを自由に選べ、発送も対応。包装を待つ間、梅昆布茶がもてなされる。使用しているかぶらは亀岡をはじめとする丹波産が主。この地域独特の、霧が多く寒暖差がある風土が、色白できめ細かい身の引き締まったかぶらを育ててくれるとのこと。昆布も吟味していて、北海道産の平昆布と根昆布をたっぷり使用。これほど多くの昆布を使うお店は見たことがなく、薄く切ったかぶらと交互に重ね入れ、独自の色とうまみを引き出しています。
本店では樽から出したばかりの千枚漬を販売。1枚から購入でき、本来の品質を守るために昆布が多めに添えられる。約1週間かけて漬け上がる千枚漬は、店の奥にある作業場で冬の間繰り返し漬け込み、2月末頃まで販売しています。漬物の多くは保存食ですが、千枚漬は生鮮品であることをお忘れなく。味も色も日々変化するので少量や食べきれる量を購入したければ、量り売りの千枚漬がおすすめです。
2.京都を代表する、甘酸っぱいマニアックな漬物「すぐき」
かぶらは一口大に、葉は噛み切りにくいので細かく刻み、生姜醤油がよく合う。1パック800~2000円。12月~翌5月ごろまで販売。千枚漬と並ぶもうひとつの冬の漬物が、生成り色に漬かった「すぐき」です。
上賀茂神社の社家に代々伝えられた京都で最も古い漬物で、上賀茂産のすぐき菜を丸ごと使い、昔は天秤に重しを掛けて漬け込んでいたそうです。その風景は今はもう見られなくなってしまいました。
家伝自伝の製法で四季折々の漬物を製造し、年間60種類ほどを扱う。冬限定の赤かぶや日野菜の昆布漬もおすすめ。村上重では古来の手法を受け継ぐ乳酸菌を利用した自然発酵で作っています。まろやかな酸っぱさを感じさせる味で、ちょっと癖のある酸味。通は自分好みの酸味になるまでおいて楽しむそうですが、初めての人は食べやすく仕上げた刻み生姜入りの「ちりめんすぐき」から始めるといいでしょう。5月末から6月の間はすぐきを春まで自然発酵させた「時候漬」が販売されるとのこと。こちらも見逃せません。
京都の漬物には季節感があり、千枚漬とすぐきは料理のような味わい深さがあります。立春が過ぎ、春は間近ですが、今のうちにぜひ味わってみて下さい。
1832(天保3)年創業の老舗漬物店。味噌や醤油を扱っていた創業時の名残りとして、玄関先に杉玉がかかる。村上重本店
京都市下京区西木屋町四条下る船頭町190
電話 075-351-1737
営業時間 9時~19時(土・日・祝日は19時30分)
定休日 なし(元旦から3日を除く)
http://www.murakamijyuhonten.co.jp/ 西村晶子/Shoko Nishimura
関西を拠点に、京都の食や文化、人、旅を幅広く取材、編集。長年、『家庭画報』の京都企画を担当し、さまざまな記事を執筆。最近の書籍の仕事に『
旨し、うるわし、京都ぐらし』(大原千鶴著)がある。
表示価格はすべて税込みです。 撮影/内藤貞保