憧れの軽井沢ライフ 第7回(全24回) 本物の軽井沢別荘文化を知り、この地をこよなく愛する人々の別荘ライフと軽井沢の本物の暮らしを追求する話題のホテル、美食の新潮流を紹介していきます。
前回の記事はこちら>> レーモンド流儀の軽井沢別荘(2)軽井沢別荘の規範、簡素にして誠実な杉丸太建築
北澤別荘 (レーモンド「軽井沢新スタジオ」)ドーム状の屋根から煙突が突き出た外部の形から中を想像できるのが、レーモンド流の建築。軽井沢ゆかりの建築家アントニン・レーモンドの「軽井沢新スタジオ」は1962年に完成したものです。現在、レーモンドの愛弟子である建築家の北澤興一さんが、自身の別荘として受け継ぎ、レーモンドの設計思想が集約された建物として、半世紀にわたって、当時の状態をできるだけそのまま保存すべく大切に使っています。
この建物のように丸太を使い、構造をむき出しにして、素地をそのまま仕上げ材とする手法は、レーモンドが日本の民家の建築原理を手本とし、モダンハウスに置き換えたものです。構造上、意味のない柱や梁、不必要な装飾を排除し、単純で機能的で経済的な建築を生涯追い求めました。
アントニン・レーモンドさん
1888年、現チェコ共和国に生まれ、後にアメリカに渡る。帝国ホテルの設計助手としてフランク・ロイド・ライトとともに来日。1933年「軽井沢夏の家」(現ペイネ美術館)、1935年聖パウロカトリック教会を設計。インテリアデザインを担当した妻・ノエミと終生、独自の美を追求した。このレーモンドスタイルは、聖パウロカトリック教会や「軽井沢夏の家」(現ペイネ美術館)などにも見受けられ、簡素を旨とする軽井沢の別荘建築の一つの規範となりました。
また、杉の磨き丸太や材を多様な大きさで組んだ工法は、「外部の形は内部の正確な表現でなければならない」という彼の思想を、体現したものとなっています。
この山荘の中心となるのは十二角形の大空間のリビング。
「リビングの中心は暖炉」というレーモンドの言葉そのままの空間。この家を大切に受け継ぐ愛弟子の建築家の北澤興一さん。
中央には筒状の迫力のある暖炉があり、各面は作業机、リビング家具、デイベッド、ダイニングセットが配され、“働く、くつろぐ、食べる、寝る”が一箇所でできるような構成になっています。在りし日のレーモンドは、夏の2か月をここで滞在し、北澤さんを含めたスタッフと寝食を共にしながら設計に没頭したのです。
建築は単純を尊ぶ。
最も簡素なものはいつも最も美しい
アントニン・レーモンド(建築家)敷地に高低差があるため、襖を開ければ和室からはリビングを見下ろせる。空間をうまくつなぐ好例。レーモンドの設計思想 5つの原則
フォトギャラリーで詳しく見る 撮影/西山 航 取材・文/本間美紀
『家庭画報』2021年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。