令和5年2月23日、天皇陛下は63歳の誕生日をお迎えになった。写真はお誕生日を前に、皇后陛下と記念撮影に臨まれる天皇陛下。写真/宮内庁提供御心は現地へ──
工夫を凝らしたオンラインご行幸啓
令和元年5月1日、天皇陛下は即位後朝見の儀において「常に国民を思い、国民に寄り添いながら」象徴としての責務を果たすとお述べになりました。そのおことばどおり、以後数か月の間に、年4回の「地方行幸啓」と呼ばれる「全国植樹祭」「国民体育大会」「全国豊かな海づくり大会」「国民文化祭及び全国障害者芸術・文化祭」へのご臨席のため、愛知、茨城、秋田、新潟の各県を訪問される一方、台風第19号で被災した宮城県と福島県もご訪問。しかも、すべてに皇后陛下とお揃いで赴かれました。そのお姿に、新時代の到来を感じた人も多いことでしょう。
令和3年5月30日、島根県大田市で開催された第71回全国植樹祭。両陛下は当時お住まいの赤坂御用地から初めてオンラインでご参加に。写真は県内の林業従事者や中学生による「緑の誓い」を画面越しに見守られる両陛下。ところが、翌年早々、コロナ禍により日本全体で外出の自粛が求められ、令和2年は戦後初めて4回の地方行幸啓すべてが中止に。感染症の収束が見通せず、なかなか人々との交流がかなわない時期が続きました。
そうした中で新たにお始めになったのが、オンラインによるご視察です。両陛下は令和3年5月に島根県大田市で開かれた「全国植樹祭」にリモートでご参加。4つの主要行事の中で初のオンラインでのご行幸啓となりました。
御所の車寄せと滋賀の会場を結んだ2度目のオンラインでの植樹祭。令和4年6月5日、滋賀県甲賀市で開かれた第72回全国植樹祭も前年に続き、オンラインでのご参加に。雨でも支障がないよう、お住まいである御所の車寄せに、両陛下の座席や木製植木鉢を設置。仮設とは思えない気品を兼ね備えたしつらいに。苗木をお手植えされる両陛下。写真/朝日新聞社植樹祭では両陛下による苗木の「お手植え」と種子の「お手播き」が行われるのが慣例ですが、当日は東京の赤坂御用地と現地に大型モニターを設置し、両陛下が赤坂御苑内に運び込まれた大型の木製植木鉢に苗木を植え、種を播かれるご様子が会場の大画面に映し出されました。
おことばをお述べになる天皇陛下。写真/時事実はこの鉢植え方式は、昭和43年の十勝沖地震によって、3日後に予定されていた秋田県での植樹祭への昭和天皇と香淳皇后のご出席が中止になった際にも採用されたことがあり、それを参考にしたそうです。現地にお出ましになれずとも、なんとか形あるものを届けたいという、代々変わらぬお気持ちが伝わってくるようです。
会場のパフォーマンスの様子。参加者が緑化の願いを込めてハンカチを振る演出に合わせて、両陛下も黄色いハンカチをお振りになり、会場との一体感がより高まった。こうして、令和3~4年前半にかけての地方行幸啓はいずれもオンラインでのご参加となりました。現地も東京も回を追って会場の設営が充実してゆき、臨場感を出すための現場の工夫がうかがえます。
令和3年10月3日、宮城県石巻市で開催された第40回全国豊かな海づくり大会。写真は石巻漁港で行われた稚魚の放流を画面越しに見守られる両陛下。ご放流台の前に大画面モニターを設置した。写真/時事 協力/宮内庁 文/大山直美
『家庭画報』2023年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。