令和の御代の新しいかたち 第2回(全5回) 天皇皇后両陛下は令和5年6月9日、ご結婚満30年をお迎えになります。長きにわたり、お二人で語り合うことを大切になさり、喜びも悲しみも分かち合いつつ歩んでこられた両陛下。令和2年春以降、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、受け継がれてきたご活動を同じように行うことさえ困難を極めましたが、その厳しい局面にあっても模索と工夫を重ねられ、国内外のかたがたとの交流の道を、新たなかたちで拓かれました。そのご足跡をご紹介いたします。
前回の記事はこちら>> 令和4年7月8日、青森県むつ市の幼保連携型認定こども園、よしのこども園をオンラインで訪問された両陛下。写真/宮内庁提供「まるでお会いしたかのよう」
オンラインご訪問で笑みのあふれるご交流
両陛下は毎年、こどもの日、敬老の日、障害者週間の前後に、それぞれの日にちなんだ施設を視察されます。令和2年以降はこうしたご視察についても、オンラインを活用なさっています。ご訪問先も従来は首都圏が中心でしたが、オンラインの利点を生かして全国各地の施設をお訪ねになっているのです。今後、新型コロナウイルス感染症の収束後も、離島や山間地など、ご訪問しづらい地域の皆さんとの交流が実現する可能性が開かれたといえるかもしれません。
両陛下と懇談中の子どもたち。手前は真手めぐみ園長。両陛下のお姿が画面に映し出された瞬間、その臨場感とあまりの神々しさに、頭が真っ白になったと真手さん。写真/読売新聞社たとえば、こどもの日にちなみ、昨年7月には青森県むつ市のよしのこども園をご訪問。同園では地域の小中学生の居場所をつくりたいと、園の空き時間とスペースを活用し、子ども食堂や学習支援を兼ねた場「まるっと。」を運営しています。
御所にお届けした「まるっと。」の活動を示したパネル。写真/よしのこども園両陛下はこの活動に参加中の子どもたちや、ボランティアで勉強を教える高校生や大学生と懇談なさいました。
パネルに使用した写真の一部で、園庭でドッジボールをする子どもたち。写真/よしのこども園高校生が小学生に勉強を教える様子。高校生は小学生との距離が近く、年齢の離れた子どもが一緒に遊ぶ際のルールづくりや、子どもたちが勉強に飽きたときのリフレッシュ方法などを心得ており、先生顔負けだそうだ。写真/よしのこども園園長の真手めぐみさんは「特に印象的だったのは、皇后陛下が年代の異なる小学生から大学生まで、一人一人に対して寄り添われ、答えやすいようにかみ砕いてお尋ねくださったことです。包み込まれるようなその温かさに触れ、極度に緊張していた子どもたちも何とかご質問に答えることができました」と振り返ります。
傾いたドーナツ型の屋根が中庭と一体化したユニークな園舎。設計は手塚建築研究所。写真/よしのこども園両陛下はこうしたご訪問の際、事前にさまざまな情報を入手し、入念に学ばれたうえで現地入りなさいますが、オンラインならではの新しい形として注目されるのは、話題に上る品々があらかじめ両陛下のお手元に届けられている点です。
令和5年1月25日、両陛下は福島県三島町の特別養護老人ホーム桐寿苑をオンラインでご訪問になり、「回想法」の取り組みをご見学。両陛下の前のテーブルにも回想法に用いるさまざまな道具が置かれている。写真/宮内庁提供一例を挙げると、今年1月に福島県三島町の特別養護老人ホーム 桐寿苑をご訪問になった際には、雪上を歩くときに用いる「かんじき」や「すりこぎ」などの民具が用意されました。同施設では、入所者が若い頃に使っていた道具に触れることで、過去を思い出し、脳の働きを活性化させようという「回想法」の取り組みが行われているためです。
古い道具を手にしながら話をする入所者の皆さんと、画面越しに見学される両陛下。写真/朝日新聞社現地の皆さんと同じものをご覧になりながら歓談なさることで、実際にお会いになったような一体感が生まれるに違いありません。
協力/宮内庁 文/大山直美
『家庭画報』2023年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。