(前回まで)理想の里山を実現するため、滋賀県大津市仰木地区で農家になる決意をした今森さん。知人が見つけてくれた農地に向かってみると……。
今森光彦 環境農家への道 第2回
“見捨てられた土地”からの出発
(文/今森光彦)
西村さんお薦めの農地に行ってみると、荒れた農道の先に、木々が暴れる森があるだけだった。
いや、よく見ると森ではない、竹林だ。この辺り一帯が昔は田んぼだったというが、とても信じられる風景ではなかった。ひとつだけ救われたのは、そこがどうやら〝光の田園〟に面しているらしいことだ。
“光の田園”というのは、私がもっとも好きな棚田。大津市郊外の仰木地区と伊香立地区一帯は、琵琶湖と比叡山に挟まれる丘陵地になっている。なだらかな丘には、山から流れる数本の川があり、谷にそって棚田が細長く伸びている。
こちらの記事もおすすめです【特設WEBギャラリー】今森光彦さん、美しき切り絵の世界40年くらい前、そのなかでも特に日照時間に恵まれた真東西につづく一本の谷に出会った。私は、この場所を、“光の田園”と名付けた。ここは、早朝も夕刻も、満足する空気感にあふれている。新しい風景を求めてどれだけ通ったことだろう。
私は、見捨てられたような寂しい土地を前にして、何かとてつもなく大きな荷物を背負わされた気持ちになった。竹林の梢のはるか向こうに、比良山の頂きが青く霞んでいる。 複雑な表情で後ろを振り返ると、夕日に照らされて西村さんの笑顔が赤く染まっていた。
田園の小さな物語が、またひとつはじまったのである。
切り絵をする部屋から眺める冬の比良山。晴れた日は、峰の雪が白く光って美しい。ただ2月ともなると、大気の中に春の気配がただよっている。