[特別インタビュー] 五木寛之への10の質問 第3回(全5回) 1月に上梓されて以来、10万部を超えるベストセラーとなった五木寛之さんの『捨てない生きかた』。“捨てない”ということを主題に、個人としての生き方から、国家論・文明論まで展開する同書。五木さんがこの著書で語る“捨てない”という言葉に込めた真のメッセージを10の質問から紐解きます。
前回の記事(Q3)はこちら>> Q4 捨てて後悔しているモノはありますか?
五木 家族のアルバムです。第二次世界大戦後、僕は平壌から日本に引き揚げてきました。そのときに裸一貫で帰ってきたので、捨てたわけではありませんが、結果としてアルバムを持ってこられなかったのが悔やまれます。子どものときの写真、早くに亡くなった母親の写真を一枚も持ってくることができませんでした。昔、日本にいる友人に送った写真を今になって送ってくださるかたもいらして、こんな写真を撮っていたのかと思う機会もありますが、昔は家族写真なんかは写真館で撮っていますから、特別ですね。
以前、テレビの東日本大震災のドキュメンタリー番組で、見渡す限りの瓦礫の中で、高齢のご婦人が、何かを探している場面を見たことがあります。レポーターが、そのご婦人に何を探しているかを聞いたところ、「位牌です」とおっしゃった。きっと、お位牌はその人にとっての依代だったんでしょう。誰かと何十年かを一緒に過ごした、思い出が託されている依代。その気持ちがよくわかりました。その人、その人にとって価値ある依代があって、それはマッチ箱やコースターのように、他人から見ると取るに足らないものの場合もあります。
『捨てない生きかた』(マガジンハウス刊)何年も着ていない服や、古い靴、鞄、本、小物たち。一見、何の役にも立たないように見える愛着のある「ガラクタ」こそ、後半生を豊かに生きるために大切にすべき回想の友であると提言。捨てる身軽さより、捨てない豊かさに気づかされる、コロナ以降の新時代の生きるヒントが詰まっている。
『捨てない生きかた』Amazon販売ページはこちら>> 撮影/伊藤彰紀〈aosora〉(人物) 取材・文/小倉理加
『家庭画報』2022年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。