潤う成熟世代 快楽(けらく)─最終章─ 作家・工藤美代子さんの人気シリーズ「快楽」の最終章。年齢を理由に恋愛を諦める時代は終わりつつある今、自由を求めて歩み始めた女性たちを独自の視点を通して取材。その新たな生き方を連載を通じて探ります。
前回の記事はこちら>> 第13回 不倫の恋は死語ですか?(前編)
文/工藤美代子
最近ちょっと困っているのは、不倫という言葉の意味についてだ。
私が若い頃は、不倫に関しての良いイメージなんて一つもなかった。だいたいパターンは決まっていて、中年の所帯持ちの男と独身の若い娘が恋に陥る。必ず妻とは離婚するから、子供が中学卒業するまで待ってくれとか、妻の母親が病気で余命いくばくもないので、それが片付いたら結婚するつもりだとか、男の側はあれこれ言い訳をする。
そして、たいがいの不倫カップルは10年以内には破局を迎える。男が離婚を決行できないからだ。そんな類の話がいくらでも私の周囲には転がっていた。
デートが終わったら、他の女(つまりは妻)のいる家に帰る男なんて、いくら「君を一番愛してるよ」と言ってくれたって、噓に決まっているではないか。何が悲しくて、毎日他の女と同じ部屋で寝ている男と付き合わなければいけないのか。そのバカバカしさに疲れ果てた女性をさんざん見てきた。
それでも既婚者と、なかなか別れられないケースは確かにあった。そのたびに「不倫なんてしょせんは時間の無駄じゃない」と私はよく言ったものだ。
もちろん、富や権力を持つ既婚男性を後ろ盾にして、キャリアの階段を駆け上って行った独身女性たちがいるのも知っている。世に名前を知られて一流の人物になることと引き換えに、愛人という立場に甘んじた。賢いといえば賢いけれど、相手の妻の気持ちを考えると、やはり不倫は罪悪だと私には思えた。
ところが、令和の時代になると、不倫の実態もずいぶん変わったようだ。
まず、女性のみが犠牲者と考えるのはおかしいと友人のアサミさんに言われた。彼女は50代後半のキャリアウーマン。旦那も子供もいる。アサミさんによると、以前と違って、女性たちはずっとしたたかになった。なにより経済的にも自立している人が多い。そして、不倫に関する罪悪感は確実に減少しているそうだ。
つい最近、アサミさんより年上の従姉が結婚した。初婚である。仮にその女性を智佐子さんとしよう。智佐子さんは30年近く不倫をしていた。相手は8歳年長の妻子持ちの男。途中で男の妻が気づいて大騒ぎがあった。なにしろ子供が4人もいた。それでも智佐子さんは不倫を続行した。彼女は男より裕福であり、彼に扶養してもらう必要がなかったのは大きな要因だったかもしれない。