潤う成熟世代 快楽(けらく)─最終章─ 作家・工藤美代子さんの人気シリーズ「快楽」の最終章。年齢を理由に恋愛を諦める時代は終わりつつある今、自由を求めて歩み始めた女性たちを独自の視点を通して取材。その新たな生き方を連載を通じて探ります。
前回の記事はこちら>> 第14回 強引に迫るのはルール違反(前編)
文/工藤美代子
どこの国にでも、自信満々の女性たちはいる。私は若い頃にカナダで暮らしていた。その時の友人にアメリカ人と日本人の女性がいた。彼女たちが期せずしてまったく同じセリフを吐いたのを憶えている。
「ああ、カナダって本当に退屈な国だわ。男は既婚者か同性愛者しかいないのね」
そんなことはもちろんない。独身でパートナーを探している男性も、カナダにはたくさんいた。ただ彼女たちには興味を示さなかっただけだろう。
本当はそう反論したかったが黙っていた。カナダの男性だって、素敵な女性がいたらアメリカ人だろうが日本人だろうが、デートに誘うはずだ。誰も誘わないのは、あまりその女性が魅力的に映らなかったからではないだろうか。
今の私だったら、はっきり言ってしまうかもしれない。たとえどれほど文化の違う国でも、恋が芽生える時には芽生えるもの。いい男がいないのは、すべて既婚者と同性愛者だからではないですよと。
それにしても「私はとっても男からモテる」と頭から強く信じている女性がいるのが不思議だった。だいたい、自分はモテないと自覚していた方が、がっかりしないですむではないか。いいのよ、別に誘ってもらえるなんて望んでいないからといつも思っていたら、稀に何かのご縁があった時は跳び上がるほど嬉しいに違いない。
そんなふうに考えていたのだが、どうやら自分の魅力を高く評価して男性に突撃する女性は予想よりも多いようだ。というか、そういうタイプの女性が増えているのかもしれない。
これは去年、知り合いから聞いた話だ。名前は照葉さんとしておこう。著名な学者の娘さんだ。たしか43歳くらいのはず。実は私の知り合いというよりは姪の友人なのだ。
照葉さんの父親の浩司さんが78歳で突然の病に倒れたのは去年の春のことである。左半身が不随になったが、1年近くのリハビリを経て、ずいぶんと自由がきくようになった。それでも、まだ一人でお手洗いへ行くのは難しい。
そこへきて照葉さんのお母さんの敬子さんが、夫の介護で疲れが溜まっていたのだろう、新型肺炎に感染して、10日ほどで亡くなってしまった。照葉さんの憔悴はとても激しかった。私の姪は、さかんに友人の健康を心配していた。
「ねえ、照葉さんは優しい人だから、あのままお父様の介護をしていると今度は彼女が病気になる。やっぱり介護はプロに任せた方がいいと思うんだけど」と姪は言っていたが、まったくその通りだ。
照葉さんだって家庭もあれば仕事もある。ここは介護士さんに任せるに限るだろう。何とか姪は友人を説得した。