「言うまい、言うまい」と思えど、今年の暑さは格別。何をどう着ても暑さから逃れられないなら、少しでも「涼しく見える」工夫を凝らしたいものです。今月は、母譲りの夏きものや帯を「娘のセンス」で今様の軽やかな夏の風情で纏います。
芭蕉布を、半幅帯で愛らしくカジュアルダウン
芭蕉布(ばしょうふ)といえば夏衣の代表格、そしてきもの好き垂涎の的といえます。原料である糸芭蕉の栽培にはじまり、成熟した糸芭蕉の茎を剥いで、皮を煮てうーびきし、乾燥させてから細く裂いて糸に。その後、絣結びや染め、細かい準備を経てようやく糸が機にかかる……。
そんな気の遠くなるような工程と時間を費やし、丁寧な手仕事で美しい織物へと仕上げられていきます。その希少性から、現在では工芸品のような扱いとなっていますが、ありがたいことに母の箪笥に、しなやかな芭蕉布のきものが眠っていました。
文庫結びをアレンジしたふっくらと優しい「割り角出し」結びに。科布(しなぬの)の帯などを合わせ、お太鼓に結べば「完璧な夏の装い」になりますが、なんだか今の私には気恥ずかしくて……。若い女の子がハイエンドなブランドのスーツを着ていてもどこか不釣り合いに思える感覚と似ているかもしれません。そこで、この布が持っているプリミティブな個性に寄り添い、麻の半幅帯で頑張りすぎない等身大のコーディネートにカジュアルダウン。自宅でお客様を招いて過ごす時には、こんなくつろぎの装いで。
芭蕉布を着付ける時は、まるで折り紙を折るよう。パリッとして肌に張り付かないために、風をはらみそれが涼やかさを誘います。半幅帯を合わせると、お太鼓や帯揚げがないぶん背中が解放されて軽やか。かつて沖縄の方々が常着にしていたような、力の抜けたコーディネートで南国の布を纏うと、照りつける太陽も湿気もなんのその。暑さを楽しむ心持ちになってくるから不思議です。
スイカの帯留めも夏らしい遊び心を演出します。円形のオブジェのような掛け花入を団扇に、植物を団扇に描かれた絵に見立てて。リビングにも涼やかな風が舞い込みました。