1月
歳迎えのひと箱
京都の町中に住みながら、我が家は畳のないマンション暮らし。それでも年末には歳神様をお迎えするための干支の置物や正月飾りなどの縁起物を出してきては、玄関に掛けたり、床の間がわりの朝鮮箪笥の上に置いたりしています。
現代的な洋の空間でも、それらを飾るだけでいつもの空間がふわっと正月の気を帯びるから不思議。日本古来の飾りは、たんなる装飾ではなく、よろずの神とつながる仕組みをどこかに秘めていると実感させられるひとときです。
私はふだんから抹茶を喫むことを習慣にしています。また、茶箱を持ってたびたび友人と野外でお茶を点てたり、旅先で一服したりしています。
喫茶の道具として茶箱を選ぶのは、どこでもお茶が点てられるから。茶箱さえあれば、我が家も、鴨川のベンチも、友人のリビングも、旅先のホテルも、どこもが「茶室」になってしまう。茶室を持たぬ身にはぴったりのアイテムなのです。
ふだん使いのお茶ですから、組む道具は手に入りやすい工芸品や生活用品を見立てたものがほとんどです。
京都に住んでいると、町のあちらこちらに和菓子屋さんがあり、その店先の菓子たちはみごとなほどに四季折々変化していきます。茶箱の茶はそれらの菓子を気軽にいただくためのツールでもあります。目にも口にも幸せをもたらすかずかずの菓子。いただかずに過ごすのはもったいない、と思っています。
見立て道具の多い茶箱あそびですが、1月は一年のはじまりですから、京都ゆかりの茶道具を新旧取り混ぜて、茶室でも使えるようなめでたいひと箱にしてみました。
歳神様が宿る松、そのほか吉祥文として喜ばれる植物の意匠が中心です。茶道具に関わらず、日本の工芸品には植物文のものが多く見られますが、正月には特にその傾向を強く感じます。
しなやかな植物たちの生命力にあやかろうと、松竹の茶碗や、根引き松の茶巾筒、ウラジロに見立てた羊歯文様の棗などを組み合わせてみました。
さらに置上技法(おきあげぎほう)の振出や一閑張の茶箱に描かれる菊は、御所風の文様ですので、令和になって初めて迎える新年の晴れの気分を盛り上げてくれます。
干支の伏見人形も一緒に飾り、新年のはなやぎを味わいます。
壁には有職造花雲上流(ゆうそくぞうかうんじょうりゅう)の掛蓬莱(かけほうらい)を。松竹梅の造花と稲穂、ネズミさんが抱えているのも米俵とめでたづくし。
マンションの一室で味わう、瑞穂の国のお正月、歳迎えの一服です。