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茶箱あそび

銀龍草を探しに、瓶茶を持って早朝の山散歩へ ふくいひろこ「京都発 茶箱あそび、つれづれ」8月

2020.08.21

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〔連載〕京都発 茶箱あそび、つれづれ 京都在住のふくいひろこさんが、ひと組の茶箱を通して、ときには京都の歳時や工芸を味わい、ときには茶を点てる場所を変えて、日常に抹茶を楽しむ具体例をお伝えします。一覧はこちら>>

8月
早朝の山散歩のお供、中国茶


日々の生活のサイクルの中で、時間の許す限り散歩をするようにしています。市街の中心に京都御苑があり、少し東に行くと鴨川が流れているのもこの街の魅力。わが家からもそれほど遠くありませんので、その日の気分によって、御苑の森を抜けて行くこともあれば、鴨川を北上したりしています。

四条あたりで「鴨川」と呼ばれる川が、「賀茂川」と名前を変える出町柳あたりまでゆくことが多いのですが、時間があるときはさらに北に進み、上賀茂神社まで足を延ばすこともあります。


銀龍草東山で出会った銀龍草の花。季節の花々に出会うのも山散歩の楽しみ。

早朝のひとり歩きが中心ながら、今年は東山にある中国喫茶の名店、好日居主人の横山晴美さんに近くの山に連れて行っていただくことが何度かありました。

晴美さんとは、前から仲間うちの夕飯でご一緒したり、お茶をいただいたりしていましたが、山へ連れて行っていただくことになったのは、ある植物がきっかけでした。

山散歩の途中で銀龍草(ギンリョウソウ)という花に出会うというのです。以前からこの花の存在に魅かれていたと伝えると明朝一緒に行きましょうと言って下さったのが始まり。

わたしは晴美さんのことを「茶の女神」とお呼びしています。さまざまな茶葉を扱いながら、その場の状況やお茶の状態にピタッと合わせて、極上の味わいを引き出されるから。それは好日居でいただく喫茶の時も、仲間うちのお茶の時も、イベントで特別な趣向を凝らされる時も変わりません。静かににこやかに茶葉と語り合うように淹れてくださるお茶はいつも幸せな時間をもたらしてくれます。

身軽にスイスイと山を行く茶の女神。

女神のお茶は、山に入っても同じでした。たっぷり汗をかいたあと、市街が見渡せる小高い丘の山道に設けられた木のベンチでひと休み。その時いただいたのが「瓶茶」です。

中国茶の本場では各々のコップに茶葉を入れ、湯をそそぐらしいのですが、この瓶茶はそれを応用し、ジュースやシロップなどの空き瓶に茶葉を入れて湯を注いだもの。歩いているうちに茶葉が開いて、お茶ができています。女神の軽装のポケットの中から、瓶茶と小さな碗、そして木の実などの菓子が魔法のように出てきて、散歩の途中の楽しいお茶の時間になりました。

今回、晴美さんが持って来てくれたお茶一式。女神には茶箱さえもいらず、ポケットから次々と道具類が出てくる。

コツは、茶葉をいつもより少なめにしておくこと、だそうです。

それからわたしもふだんの散歩で瓶茶を持ち歩くようになりました。一人の場合は、茶箱は持たず瓶茶だけにして、瓶から直接お茶を飲んでいます。誰かとご一緒する時用に中国茶用茶箱をひと組作り、最近はもっぱら愛用の日々。差し湯用に保温ポットも持参します。

わたしの中国茶用の一式。コンパクトにしたつもりでも、女神に比べるとまだまだかさ高い。茶葉も入れすぎて叱られました。

そして山散歩に連れて行ってもらえる日には、2種類のお茶を楽しむという贅沢な時間を過ごすことになりました。

それぞれが持ってくるさまざまなお茶を飲み比べたり、時にはブレンドしたり。抹茶好きのわたしと、中国茶中心に活躍される晴美さんでは持参する菓子も違ったり、時には微妙に重なっていたりと、その時々の異なるコラボレーションが楽しいのです。

この日の茶は碧玉茶、菓子は亀屋良永の「朝顔」。

中国茶用茶箱には急須を仕込んでおいて、屋外でお茶を淹れることもできますが、この瓶茶はとてもコンパクトな上に、今のようにあまり同じ場所に長時間滞在したくない時にはぴったりの方法だと思います。まあ、実際にはなんども差し湯してゆるゆるとお茶を飲んでしまうのですが。

山道のベンチでお茶を楽しむ横山晴美さん。

今回の山散歩では晴美さんが菊茶を、わたしは碧玉茶を持参し、清々しいお茶の時間になりました。この日は雨上がりの朝、霧が晴れてゆくような気持ちのよい空気を吸い込みながらいただく、いのちが延びるような女神の茶。

晴美さんに教わったこの瓶茶は、中国茶に限らず緑茶や紅茶でも応用できます。湯の温度や茶葉の量を加減しながら、日々のお茶を楽しむのも良いかもしれません。

持ち寄りの茶と菓子。器のコラボも楽しい。

・「好日居」Instagram @kojitsukyo

ふくいひろこ

京都市生まれ。茶道周辺や京都関連本の編集者をつとめながら、自身の趣味として茶箱であそぶこと20余年。茶道具のみならず見立ての道具をふんだんに使い、日常で楽しむお茶を提案。道具を集めるのに飽き足らず、理想の茶箱道具を知り合いの作家や職人にオーダーするうちに、オリジナル茶箱の作品群が生まれ、時折展示会なども行っている。
●水円舎
ホームページ:https://suiensha.com
Instagram:@suiensha
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文・写真/ふくいひろこ
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