昨年1年間、家庭画報.comで連載をさせていただいた「京都発 茶箱あそび、つれづれ」。おかげさまで今年も継続させていただくことになりました。
茶箱について話してと言われると際限なく喋るわたしですが、せっかく2周目の機会をいただいたのですから、今年は茶箱をひとつ組みつつも、皆さまを京都のおすすめの場所へご案内しようと思います。
30年通い続ける店「うるわし屋」
スタートはここ「うるわし屋」さんから。京都御苑の南側、丸太町通にある漆専門のアンティークショップです。
うるわし屋の店内。所狭しと漆器や陶器、茶籠などが並んでいる。日常で使える上質の器を扱うお店で、漆器はもちろんのこと、銀器やガラス・陶器など、使い勝手の良いものがいろいろ並んでいます。近年では、不定期に開催される茶箱展でも知られています。わたしの茶箱活動にも本当にご縁の深いところなのです。
以前に「うるわし屋」の茶箱展で求めた大野鈍阿作の楽茶碗で一服を。うるわし屋さんとの出会いは30年ほど前のこと。朱塗りの菓子椀を5客求めたのが最初で、若かったわたしが揃いで手に入れられる価格を嬉しく思いながら、連れ帰ったのを思い出します。
わたしはずいぶん前から茶箱を組んでいますが、手に入れられるものは限られていました。いわゆる茶道具商さんの道具は高嶺の花で、頑張って身の丈を越えて一つ手に入れようものなら、当分もう何も買えないことに……。
一介の勤め人にとって、複数の茶道具を揃えなければならない茶箱が趣味というのは無謀なこと。ひとつの箱にどれもきら星のごとく輝く道具たちが入っているのが当時、思い描く茶箱の理想像でした。
同じ年頃の女性が持っているブランド品のバッグや靴には目もくれず、海外旅行も夜遊びもせず、ひたすら茶箱の道具を求め続ける自分を少しクレイジーだと思いつつも(友人たちも呆れていました)、茶箱の道具が綾なす小宇宙のような美に心を奪われてしまったのですから、どうしようもありません。
茶箱が繋ぐ大切なご縁
そんな中で、うるわし屋さんには少し頑張れば手の届く道具がいくつもありました。また、店主の堀内明美さんとは、それらの道具について「ふつうに」話せるという喜びがありました。
そしてお付き合いを重ねてゆく中で、10年ほど前に明美さんの茶箱の本の編集をすることになりました。当時、わたしが所属していた出版社で、明美さんの茶箱の本を作ることになり、担当させていただくことになったのです。そして、できあがった本は好評で、もう一冊続編を作ることに。
その後、わたしがフリーの編集者になってから、今度は世界文化社で出版された『愛蔵版 茶箱と茶籠の図鑑99』を担当することになりました。自身の意思というよりは、茶箱が繋いでくれた不思議な縁です。
堀内明美さんの著書『愛蔵版 茶箱と茶籠の図鑑99』(世界文化社刊)水円舎としてオリジナルの道具を作ろうと決める少し前、茶箱生活の中で突き当たっていた悩みは「箱問題」でした。それぞれの道具はそれなりに面白いものに出会えるのですが、それらを収める茶箱は使い勝手が良いものに出会えず、指物師の職人さんに寸法を指定して作ってもらったりしながら試行錯誤を重ねていました。
そんな時、できあがった箱をうるわし屋さんへ持って行って制作エピソードを聞いてもらったり、感想をお伺いしたりしました。なにしろ茶箱道具を組む際の些細な悩みや発見は、実際に組んでみないとわからないことが多く、そういう意味では明美さんとの会話には、他の人とはかなわない“ツボ”を共感しあえる喜びがありました。
新年のひと組は、きちんとした茶道具で
初春のひと箱は裂地類も明るくおめでたく。というわけで(前置きが長くなりましたが)、今回は水円舎の茶箱に、これまでうるわし屋さんで求めた道具類を組んだお正月のひと組。これまでも時折、茶箱を組んでは伺い、お店のテーブルでお茶を点てさせていただいてきましたが、今回は明美さんへの感謝も込めて、水円舎オリジナルの中でいちばん豪華で美しい金色の雲の意匠の箱を初づかいしました。
さっそく一服差し上げた。道具はうるわし屋さんで求めたものばかり。ふだん見立ての道具で茶箱を組むことが多いのですが、今回はどれもうるわし屋さんのきちんとした茶道具。茶箱と茶筅筒、茶巾筒は水円舎のオリジナルにして、「うるわし屋×水円舎」コラボのひと組が実現。
うるわし屋さんの道具は、十数年前に最初に求めた象牙の茶杓から、去年暮れの展覧会でいただいた青磁の振出しまで、どれもお気に入りの品です。
抹茶でも、中国茶でも
テーブル脇の器局(ききょく)からお茶の道具が次々と出てくる。一服差し上げると、今度は明美さんが中国茶を淹れてくださいました。わたしの茶箱は抹茶の箱がほとんどですが、明美さんは煎茶や中国茶用の茶箱もたくさん組まれます。
お店の隅には、ご自分用の器局(ききょく。大型の箪笥形の茶箱の一種)が据えてあり、そこにたくさんの道具が入っています。その中から、今日の一煎用に選ばれた道具で白茶のおもてなし。
この日、明美さんが淹れてくれたのは、中国茶の白茶。身体がホカホカ温まる。ふだんでも時折こうしてお茶を淹れてくださるのですが、やはり抹茶でも中国茶でも、その場で淹れて誰かといただくのは、贅沢なことです。
出してくださったお菓子は、中にクジが入っていて初春の運試し。ご家族の方が大吉が出るまで食べ続けたという話を聞きながら、いただく新年のお茶は格別です。
日常にお茶を楽しむ時間があれば
わたしが以前から密かに夢見ているのは、世界中のおうちに茶箱が一つあること。そして、誰もがさっと道具を出してお茶が飲めること。
このとき、明美さんがお茶を淹れながら「わたしね、どのおうちにも一つ器局があればいいのにな、って思っているの。そうしたら、そこに好きな道具を組んで、好きな種類のお茶が即座に楽しめるじゃない」とおっしゃったのです。
そう!そう!!
本当に願うことは、それらがもたらす平穏な時間。
それぞれの生活があり、それぞれの好みがあるけれど、それぞれのスタイルで楽しめば良い。日常のお茶は誰にとっても大切なひとときだから。
今年も皆さまに、素敵なお茶の時間が訪れますように。