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本木雅弘さんとの出会いの場でまとった思い出のきもの 内田也哉子の衣(きぬ)だより

2022.05.13

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母と娘の新たなる邂逅 内田也哉子の「衣(きぬ)だより」第3回 花々の移ろいが目まぐるしいためか、それとも、たくさんの出会いや別れがある季節のためでしょうか。暮春は、どこかノスタルジックな気分に誘われます。今回、真っ先にお目にかける撫子色の小紋は、30年前に、ご主人・本木雅弘さんとの出会いの場でまとっていた思い出の1枚。ほのかに初々しさが薫るきものを、妻となり、母となった内田也哉子さんが、ひと匙の個性を添えて装います。前回の記事はこちら>>
レッドカーペットを歩いた“ファースト・ドレス”きものの解説は、記事の最後にある「フォトギャラリー」をご覧ください。

内田也哉子さん(うちだ・ややこ)
1976年、東京生まれ。文筆業。夫で俳優の本木雅弘氏とともに3児を育てる。著者に『会見記』『BROOCH』(ともにリトルモア)、『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)、中野信子さんとの共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)、『新装版 ペーパームービー』(朝日出版社)など多数。また、2022年5月公開予定の映画『流浪の月』に出演する。

そでふれあうも…… ── 内田也哉子


「海外への旅には、なんてったって着物がぴったり。スーツケースの底にぺたんと薄く納まって、かさばらないし、どんな場に呼ばれても失礼がないし、見映えもいいでしょう」 と、母はまるで壊れたレコードプレイヤーのように繰り返し、 娘に言い聞かせた。実際、私がこどもの頃から、海外へ行く度、たとう紙に着物一式をセットして手渡してくれた。


16歳の春、私が米国アカデミー賞授賞式に参列するという稀有な機会に恵まれた際も、母は有無を言わさず着物を持たせてくれた。幼稚園時代から、インターナショナルスクールに入れられ、日本語の方があやふやだった私は、鍵っ子で友達も少なく、休日は映画ばかり観て過ごす少女に育っていた。

一度も一緒に暮らしたことのない父は、ロックンロール以外は、映画を数本プロデュースしたり、脚本も書き、役も演じた。そして、母は役者という生業で、文字通り私にごはんを食べさせてくれた。

そんな環境にいたことで、映画好きで英語を話す女子高生は、その年初めて、セレモニーが日本で生中継される番組の裏方のアシスタントとして、ロサンジェルスへ渡ることに。

数日間、取材先に同行し、最終日には、レッドカーペットを歩き、世界中の映画人の功績を讃える式典に参列するという、夢のような経験をさせてもらった。

アカデミー賞の授賞式へ向かう高揚感に包まれた、リムジンでのワンショッ トアカデミー賞の授賞式へ向かう高揚感に包まれた、リムジンでのワンショット。刺繡半衿や錦織りの帯、絞りの巾着まで愛らしい紅色でまとめ、帯締めとリボンに水色を差した配色の妙に、母と娘のセンスが光ります。着付けもご自身で。帯揚げや帯枕を使わない洒脱な角出し結びは希林さん直伝。

その特番の進行役を務めたのが、俳優の本木雅弘で、その旅で顔馴染みになった私たちは、別れ際に住所交換をし、当時、留学先だったジュネーブと、彼の暮らす東京をポストカードや手紙が行ったり来たりした。それから3年の月日が経ち、私たちは気がつけば、夫婦となっていた。
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