きものの文様 きものに施された美しい「文様」。そこからは、季節の移ろいを敏感に取り入れてきた日本人の感性や、古来の社会のしきたりを読み解くことができます。夏の文様を中心に、通年楽しめるものや格の高い文様まで、きもの好きなら一度は見たことのある文様のいわれやコーディネート例を、短期集中連載で毎日お届けします。
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器物(きぶつ)
扇(おうぎ。記事は
こちら)や文箱(ふばこ)、楽器(記事は
こちら)など、あらゆる道具類や生活用具を文様化したものを器物文様といいます。それらは形が美しく、古くからきものや帯に数多く用いられてきました。
単独であしらうほか、季節の草花と組み合わせるなど、多種多様にアレンジされて文様化されています。
数多くある器物文様の中から、よく見られるものや海外から渡来したものなど、6種類をご紹介します。
鈴(すず)
古来、神事や祭事に使われてきた鈴は、のちに楽器として用いられるようになりました。形が美しいために、工芸品や染織品の文様となり、鼓(つづみ。記事は
こちら)や烏帽子(えぼし)などとの組み合わせも見られます。
現代は小紋や染め帯のほか、子どもの衣装にも使われます。また、家紋にも使用され、神楽鈴、丸に三つ鈴などがあります。
【向く季節】
通年
几帳(きちょう)
室内調度である几帳を文様化したものです。几帳は衝立(ついたて)式の2本の柱を立て、その上に横木を渡し、布の帳(とばり)を垂らしたもので、平安時代の『源氏物語絵巻』などによく見られます。布には花鳥や草花の文様が華やかに描かれています。
【向く季節】
通年
八橋(やつはし)
小川や池などに幅の狭い板を継ぎ渡して架(か)けた橋を文様化したものです。平安時代の『伊勢物語』にある「東下(あずまくだ)り」に取材した八橋(愛知県知立市の地名)に由来したもので、尾形光琳の作品にも橋に流水と杜若(かきつばた)を添えた文様が見られます。
写真は流水と八橋、菊などで構成されています。
【向く季節】
通年、夏
鬘帯(かずらおび)
能装束で女性役が頭に巻いて背中に長く垂らす幅4cm、長さ2mほどの装飾用の帯を鬘帯といいます。額(ひたい)の部分と後方に垂れる部分に刺繍の文様があり、唐織(からおり。織りの技法の一種。能装束では公達や女性の上着のことをいう)などと取り合わせて用います。
文様はリボン状の美しい幅広の紐を伸びやかにあしらったものが主流です。
【向く季節】
通年
文箱(ふばこ)
文箱は、文筥、文笥、文笈などとも書き、書状などを入れるための箱です。古くは書物を入れて運ぶ箱のことでしたが、中世以降は主に手紙類を入れて往復する細長い箱を指すようになりました。
江戸時代には、蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)などの美しい飾り文箱が婚礼調度品のひとつとなり、用途に応じてさまざまな大きさのものが作られました。
【向く季節】
通年
巻物(まきもの)
結婚式に
宝尽くしのひとつとして描かれる巻物は、めでたさの象徴でもあります。この色留袖は巻物の上に宝尽くし(記事はこちら)がぎっしりとあしらわれ、お祝いの席に最適。巻物を文様化したものです。巻物の用紙を一定の幅で折りたたんだ折本(おりほん)や冊子(そうし)が主流となる以前は、絵巻物や経典などとして長く利用されてきました。また、巻いた絹の反物を文様化したものもあり、そちらは巻絹(まきぎぬ)といいます。
【向く季節】
通年
きものの文様
今回ご紹介した文様を含め、300以上もの文様を掲載。文様の歴史や意味が豊富な写真によってよくわかり、体系的に勉強することができます。きものを着る場合判断に迷う格と季節が表示され、こんな場所にお出かけできます、とのコーディネート例も紹介しています。見ているだけで楽しく役に立つ1冊。