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市川染五郎さんが“10年後の自分”に贈る言葉。27歳になっている「藤間 齋さんへ」

2022.12.27

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歌舞伎の道を歩む父と子の対話「高麗屋の夢」 最終回(全3回) 令和の歌舞伎界を牽引する存在として活躍している松本幸四郎さんと17歳にして歌舞伎座の主演を果たすという偉業を成し遂げた市川染五郎さん。お二人が歩んできたこの一年を振り返って語っていただくとともにさらに未来の自分に託す思いを自らの言葉で綴っていただきました。情熱的な歌舞伎俳優の“今”を撮り下ろしの舞台写真とともにお届けします。前回の記事はこちら>>

10年後の自分に贈る言葉


市川染五郎さん

藤間 齋さんへ ──2022年10月の藤間 齋より


10年前の藤間 齋です。

僕は今、あなたに手紙を書いていますが、正直未来の自分に言えることなんて何もありません。僕がこの先の10年間何を経験し、何を蓄積してあなたになっているのかは僕には分からないからです。なので今の僕が一番強く感じていることを2つ書きます。


1つ目は、とにかく「今」を生きていたいということです。振り返らなくても「過去」は自然と自分自身を形成し続けているわけで、せっかく自分を形作ってくれた「過去」をほじくり出すよりも、「今」を詰め込んで、自分自身を強固なものにするという生き方のほうが「未来」に向かってより前進できると思うのです。そしてある程度自分という人間が固まった時に、自分の過去を振り返ってみてもいいのかなとも思っています。

もちろん、例えばここ何年かを「今」とするのか、何ヶ月かを「今」とするのか、「今」の範囲は人それぞれ違うと思います。でも僕が生きたい「今」は一瞬一瞬の「今」なのです。でもその「今」も、過ごした瞬間から「過去」になってゆく。その人生の儚い瞬間ひとつひとつを大切に、苦しい瞬間も楽しい瞬間も、一生かけて自分という人間を作っていくための材料として考え、吸収していきたい。そして、いずれ僕があなたになった時に、人間としても役者としてもできるだけ高いレベルにいることができるよう、「今」の僕を生きていたいです。

2つ目は、出会いを大切にしたいということです。世の中には色々なヒト、モノ、コトが溢れていますが、何回でも出会えるものもあれば、一回しか出会えないものもあり、良いものもあれば悪いものもある。またそれに何回出会うことができるのかも自分には分からないことです。そして、役者であればなおさら、自分のどんな挑戦を、どんなヒトが見ていて、どんなモノやコトに出会わせてくれるかも分かりません。だからこそ、自分が出会ったもの、出会うものすべてを大切にしていたいと思います。

10年後は27歳になっているはずですが、ただの通過点に過ぎません。結局人はどんなことに直面しても、出発点から終点まで、走り続けるしかないと思います。その道中の景色が鮮やかなものになるかどうかは自分次第です。少しでも鮮やかな景色の中を走り続けられるよう、たくさんのものに出会い、今の自分を作っていきたいと思います。

『揚羽蝶繍姿』

『揚羽蝶繍姿』
佐々木三郎兵衛盛綱。播磨屋の揚羽蝶が平家の紋所であることから、源平所縁の役がだんまり模様で次々と登場する演目。2022年9月、歌舞伎座。

『信康』

『信康』
徳川信康。21歳の若さでこの世を去った徳川家康の嫡男を主人公にし、時代の情勢に翻弄される親子の姿を描いた作品。染五郎さんにとって歌舞伎座での初主演作品であり、祖父・2代目松本白鸚さんが父親役で共演した。2022年6月、歌舞伎座。

徳川信康

市川染五郎(いちかわ・そめごろう)
2005年東京都生まれ。10代目松本幸四郎の長男。2007年歌舞伎座『俠客春雨傘』で初御目見得。2009年歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で4代目松本金太郎を襲名し、初舞台。2018年歌舞伎座、高麗屋三代襲名披露公演で8代目市川染五郎を襲名した。
撮影/篠山紀信 ヘア&メイク/AKANE(染五郎さん) 構成・文/山下シオン 協力/松竹

『家庭画報』2023年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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