最近多いきわめて今的なペットについての疑問
【幸せな動物一家になるためのQ&A】
動物病院を開業して29年。飼い主からの相談はペットの病気についてだけではありません。野村先生が答える現代ペット事情の悩み。
Q.保護犬を飼いたいのですが。
保護犬を飼っているという話をよく聞くようになりました。私も飼おうと思っていますが、どんなことに注意したらいいでしょうか。
A.初心者が飼う場合は注意が必要です。
ぜひとも飼ってほしいのですが、犬を飼った経験も浅く「いいことをしたい」と自己陶酔で始めるとまずうまくいきません。保護犬は、犬を飼うのが初めての人が迎えるべきではない犬です。
犬を手放すような人が飼っていた犬です。いい思い出もあるでしょうけれど、哀しい思い出もある。たとえば、飼い主に「あっ」といわれてから殴られた経験を重ねてきた犬がいるとします。そうすると新しいオーナーが「あっ」といった瞬間に襲いかかってくる。
もちろん犬は咬んでしまった瞬間にいけないと思うのですが、脳に深く傷跡が残っているので反射的にやってしまう。あることがトリガーになって凶暴化のスイッチが入ってしまうのです。
問題のある保護犬もしばらく一緒に暮らさないとわからない。そのトリガーが保護団体の人にもわからない場合があります。だから基本的に「保護犬は手ごわいぞ」と思ってください。仔犬であれば大丈夫ですが、5歳くらいからは注意が必要です。
それを理解し、そのうえで保護犬を飼いたいという場合、必ず見に行くことです。そして自分の常識とその団体のやり方が合っているかを確かめます。
避妊・去勢もするようにいわれますが、外の犬小屋に鎖で犬をつなぐ前時代的な飼い方をする環境と、家の中で飼い主の布団で一緒に犬が寝る環境とは違います。
避妊・去勢は病気予防の面もありますが、精神発達への悪影響やホルモン異常をもたらします。それとカッコよく育つかどうか。第二次性徴は大切で、犬らしさにかかわります。
Q.新型コロナのペットへの影響は?
ペットも新型コロナウイルスにかかるのでしょうか。犬や猫を数匹一緒に飼っていますが万が一私が感染した際にペットにまで広がらないか心配です。
A.犬は感染しません。猫とフェレットは感染するといわれていますが、正確なことはわかりません。
猫とフェレットは感染するといわれていますが、正確な情報かは判断できません。実験では、新型コロナを噴霧して感染した猫がその隣にいた猫に感染させたということですが、別の猫コロナが検査キットに反応した可能性もありえます。
フェレットにもフェレットコロナがあり、どれも同じコロナウイルスですから、検査キットがそれらを正確に識別できているのかどうか。
ただ犬に感染しないのは確かと思えます。犬と人間のつきあいは長く、最近の説では3万年。こんな果てしない時間を共に生きてきた動物がもし人から感染する体質を持っていたなら、今の犬はいないはずだからです。
Q.災害時にペットたちをどうすれば?
地震や台風で被災し避難所に行かねばならない立場になった時、ペットをどうすればいいのでしょうか。
A.避難所に連れて行くことはまず無理。動物病院は避難所の1つです。
東日本大震災の時、車に救援物資を積んで被災地の避難所に行ったのですが、犬を連れてきた人たちが隅のほうで虐げられているのを見て、犬と一緒の避難所生活は無理だと感じました。「犬嫌いな人もここにはいるんだ」「猫の声がうるさい」と普段優しくても究極の状況下で攻撃的になる人もいます。
避難所に頼らない用意をしておくことです。別荘、キャンピングカーなどがあればいちばんいい。親戚を頼れるならもちろんいい。
また収容力のある動物病院はペットの避難所になります。ただ、動物病院は通常自分の患者を優先しますから、病院を決めて通って話しておくといいでしょう。獣医のネットワークで知り合いの獣医に預けるということもできます。
その安全地帯に移るまでは現実問題として、筵(むしろ)を敷きペットと抱き合っているしかないのです。きれいごとではいきません。
Q.ペットを残して私が死んでしまったら?
万が一、自分が突然死んだ時、残されたペットがどうなるかを考えると不安です。他の飼い主の人はそういう時どうしているのでしょうか。
A.かかりつけの動物病院を頼りにして行き先を決めておきます。
自分が死んだらペットはどうすればいいかという相談は少なくありません。私は「遺産をあげるけど猫もセットだよ」と息子さんや娘さんにいっておくようにいいます。動物好きであることが条件です。
そして万が一の時のことを、かかりつけの動物病院に相談しておくことです。こういった相談は今どこの病院でも多いので医師も話を聞いてくれるはずですが、信頼できるかかりつけの病院を決めて良好な関係を築いておくということが重要です。
獣医師も長年診ているうちにその犬や猫に愛着と愛情が芽生えます。そして同時に責任も感じているはずなのです。無理に押しつけてもだめですが、その責任感に頼るのは一つの手です。「じゃあ万が一の時は私に連絡するよう周囲のかたにお伝えください」となるでしょう。
飼い主が亡くなって病院の別の飼い主が引き取るということもあります。動物病院のネットワークがどれほどあるかにもよりますが、「飼い主さんが死んじゃったんだよ」と頼むと飼ってくれる人はいます。ペットを引き取ってくれそうな犬友達、猫友達をつくっておくことも終活になります。
一人暮らしのお年寄りが飼っている犬の場合に多いのが、飼い主が死ぬと程なく犬も後を追って死ぬことです。5年後とかではなく、1週間ほどでということが多い。突然死で原因はわかりません。
Q.犬にとって理想の社会はどんなものになりますか。
犬の散歩も昔と比べると自由がありません。現代社会では仕方がないとも思うのですが、これがはたして正しい方向なのでしょうか。
A.日本が目指すは50年以上前の「名犬ラッシー」の世界です。
たとえば、出かける時にいまだに犬を檻に入れるという人がいます。犬がかわいそうなだけでなく、檻の中に入れておいたら大人になっても幼稚なままです。
また、リードはまさに犬をリードするためのもので馬の手綱と一緒なのですが、多くの人はリードは拘束具だと思っています。長い紐でつないだ犬とフリスビーをするという嘘のようなことが行われ、今は犬にリードがついていない時点で飼い主は犯罪者扱いされてしまいます。
「犬は獣だから大人しく見えて何をするかわからない」といいますが、人間だって同じです。躾に自信のない人がリードを強く握っていればいいわけです。
仮にリードが拘束具だとしても、大型犬が本気になれば女性や子どもの力では一瞬で振りほどいて駆けだします。リードさえしていればいいという考え自体もナンセンスです。
今の日本は「名犬ラッシー」や「名犬リンチンチン」など外国の犬の映画を参考にすべきです。50年以上前の欧米の犬の飼い方にまず追いつく。犬や猫を人間扱いするということです。海外の先進国では犬は家の中では自由、外ではリードでつないでも、レストランに入るのも地下鉄に乗るのも自由。
ついこの間までできていた犬を教育するということが最近の人はできない。子育てにエネルギーを費やす覚悟がないのです。
私も仔犬が来た時は10か月はつきっきりです。遊びにも行かず、寝る時も一緒。「一緒の布団だと犬が図に乗る」と書いてある本もありますがそんなことはない。べたべた撫で回す必要はなく一緒にいることが大事です。仔犬の時は「コラッ!」の連続。でも次第に「コラッ!」が少なくなってくる。その期間がないといい犬になりません。
横浜ベイサイドのある商業施設では人が犬と一緒にショップに入り、ドーナツを一緒に食べています。そして犬を連れている人がきれいな格好をしている。ここがポイントです。犬とお洒落を楽しむ地域では大きな災害にあっても、犬を攻撃する人たちはたぶん少ないでしょう。
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