フィギュアスケート愛(eye)とは……本誌『家庭画報』の「フィギュアスケート」特集を担当する、フリー編集者・ライターの小松庸子さんが独自の視点で取材の舞台裏や選手のトピックスなどを綴ります。
何度も見直したい、感動の演技
平昌五輪、涙腺崩壊のプログラム5選
平昌五輪が閉幕してから1週間以上が経ちますが、皆さん感動と興奮冷めやらず、ですよね。
今大会では、全般的に女子選手の活躍が目立ちました。スピードスケート、カーリング、ジャンプなどでの数々の名場面が脳裏に浮かびますが、フィギュアスケートでは男子も女子も見応えある演技が続出!
涙なしでは見られない演技が多々ありました。涙腺崩壊したプログラムを厳選してご紹介しつつ、激戦、熱戦が続いた平昌五輪をいつまでも記憶にとどめておければ……と思います。
フィギュアスケート愛(eye)選
平昌五輪、涙腺崩壊のプログラム その1
長田洋平/アフロスポーツネイサン・チェン選手(アメリカ)のFS(フリースケーティング)
「Mao’s Last Dancer」215.08点
それはまさかのSP(ショートプログラム)でした。
羽生結弦選手、宇野昌磨選手たちとともに金メダル候補の筆頭に挙げられていたネイサン・チェン選手が、17位に沈むとは誰が予想できたでしょう……。
GPS(グランプリシリーズ)、GPF(グランプリファイナル)、全米フィギュアスケート選手権と優勝を飾り、勢いに乗ってオリンピックを迎えたはずが、彼を待っていたのはまさにオリンピックの魔物でした。
個人戦に先駆け、9日に行われた団体戦のSPでも見られた不調の兆し。
ジャンプを2度失敗して4位に終わり、「興奮しすぎた。個人戦に向けて、この経験から学びたい」と話していましたが、個人戦ではさらなる衝撃が襲いました。
冒頭の4回転ルッツ、後半の4回転トウループ、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)すべてで失敗。こんなネイサンを今まで見たことがありません。
自己ベストを20点以上下回る点数をオリンピックのキスクラで見ながら、言葉を失い、茫然自失の表情をしているネイサンとラファエル・アルトゥニアンコーチの姿に胸がえぐられるようでした。
翌日に行われたFSの最終グループにいないネイサン……、にわかには信じがたい状況でした。
「1晩で立て直すのは至難の業のはず。悲観するあまり、このまま現役引退して学業に専念とか考えないでほしい」と祈る思いで見ていたFSで、彼はやってのけました。
8つ組み込んだジャンプのうち、実に6本が4回転。もともとは4回転5本の構成予定でしたが、1本増やして挑んできたその心意気が泣けます。惜しくも4回転フリップで手をついてしまいましたが、6本跳んで5本の4回転成功という史上初の快挙を成し遂げ、驚異の215.08点を叩き出しました。
FSだけ見ればもちろん1位です。最終的には17位から5位まで順位を上げました。もちろん金メダルを狙っていたネイサンとしては5位という結果に満足しているとは思いませんが、絶不調にもがき苦しむ18歳の若者が1晩でここまで立ち直り、渾身の演技を見せてくれたことに涙せずにはいられませんでした。
ソチ五輪の伝説の演技、浅田真央さんのFSラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」を皆さん、思い出されたと思います。
演技後、ほっとしたような、まだ夢の中にいるような、何ともいえない表情を浮かべていたネイサン。失意から這い上がって披露してくれたこのFSでの演技は、五輪が来るたびに思い出すことでしょう。