フィギュアスケート愛(eye) 本誌『家庭画報』の「フィギュアスケート」特集を担当する、フリー編集者・ライターの小松庸子さんが独自の視点で取材の舞台裏や選手のトピックスなどを綴ります。
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名演技で魅了
2014年以来、5年ぶりの日本開催となった“世界フィギュアスケート選手権2019”(以下、世界選手権)。
男子は、18年11月のロシア大会で右足首を負傷して治療とリハビリに励んでいた羽生結弦選手が出場。ネイサン・チェン選手(アメリカ)、宇野昌磨選手といった世界のトップが久しぶりに揃い、女子は18年のNHK杯、グランプリファイナル(GPF)、19年2月に行われた四大陸選手権を制覇し、優勝候補筆頭と目される紀平梨花選手をはじめとする日本女子選手たちとロシア女子選手たちの戦いも注目のアツい大会となりました。
素晴らしい演技がいくつも生まれた今大会ですが、中でも息をのんで見つめていたのが以下の4選でした。
今大会の主役の1人、ネイサン・チェン選手。4回転ジャンプの美しさ、正確さが武器ではありますが、キレと柔らかさを併せ持つ踊りごころもあるのが、彼のスケーティングの味わい深い魅力だと思います。ちなみに、個人的にはこのクルクルヘアに戻してくれて嬉しかったです(笑)。写真/新華社/アフロネイサン・チェン選手(アメリカ)
FS「Land of All」216.02点 1位(SP「キャラバン」107.40点1位、合計323.42点優勝)
連日超満員のさいたまスーパーアリーナで、圧倒的な強さを見せたのはネイサン・チェン選手でした。
ネイサンの調子がいいことは2019年1月25日〜28日に行われた全米選手権での完璧な演技からも予想はしていました。全米ではSP(ショートプログラム)、FS(フリースケーティング)2本ともにノーミス。もとの構成要素がハイレベルなので、どちらかだけでもミスなく終えることは厳しいなか、2本揃えてくるのは至難の業です。
全米選手権でSP113.42点、FS228.80点で合計342.22点という驚異的な点数を叩き出して、世界選手権へ登場しましたが、公式練習でも連日ほぼノーミス。その勢いのままに絶好調であることを証明する演技を、さいたまでも披露してくれました。
本番のSPも完璧。予定していた4回転フリップをさらに難易度が高いとされるルッツに替えて、唯一100点超えの107.40点で、優勝に名乗りを上げました。
そして、今大会で最高に盛り上がり、記憶と記録に残る演技の時間になった、FSでの羽生結弦選手からネイサンへの流れ。怪我から約4か月ぶりの実戦で、SPでは少しミスが出てしまい3位となった羽生選手が、FSでルール改正後の世界最高点となる206.10点を獲得する渾身の演技を披露。
会場中がヒートアップし、プーさんの嵐が吹き荒れるなかで、次に滑るのはネイサンでした。どう考えても、この空気の中で平静を保って演技を行うのは難しいのでは……と危惧したのですが。やや構成を変えたり、着氷をこらえるシーンも見られましたが、4本の4回転を成功させ、スピン、ステップもオールレベル4と、ほぼパーフェクトに仕上げてきました。 余韻漂うこの状況で、完璧だった全米選手権に近いスケーティングができるとは、恐るべし精神力!
記者会見での「イェール大学に進学して学業とスケートの両立は大変ではないか?」との質問に対し、「慣れるまで少し時間がかかったけれど、いまのこの状態、今シーズンの過ごし方が一番気に入っている」。
「羽生選手の直後の滑走で滑りにくくなかったか?」との問いかけには「羽生選手が演技をすれば、場内に稲妻が走るのは当たり前! そのあとに演技ができるのはとても光栄なことだし、自分以外のスケート仲間に対する応援にも、ファンの皆さんのフィギュアスケートへのリスペクトと愛を感じられて、間接的に力強いサポートになる」とコメント。
これまた、嫌味がなく誠意が感じられるパーフェクトな答えで、感嘆することしきりでした。
昨年に続き、世界選手権2連覇を達成したネイサンは今、19歳。10代での連覇はロシアのアレクセイ・ヤグディンさん以来となります。心技体の全てが揃ったベストな状態に感じられるネイサン。どこまで深化した姿を見せていってくれるのか。これからも目が離せません。