沖縄の唄者のドキュメンタリー『白百合クラブ東京へ行く』を制作しているほか、彼らを役者として起用するなど、これまでも歌や音楽をテーマにした作品を数多く手がけている中江さん。東日本大震災とその後の原発事故によって故郷が帰還困難地域になり、今も避難先で暮らす福島県双葉町の人々。中江裕司監督の映画『盆唄』は、避難生活が長引き、伝統芸能「盆唄」の存続が危ぶまれるなか、ハワイの日系移民に「盆唄」が継承されていることに触発され、動き出した彼らを写したドキュメンタリー作品だ。
「カメラがあることで、みなさんの背中を後押しできることもあるのではないかと思っていました」という中江監督はまた、「この映画は観客へだけでなく、双葉町の住民へのメッセージでもあるんです」とも話す。
――この作品は、以前から双葉町の盆唄とハワイのフクシマオンドのつながりを追いかけていた写真家の岩根 愛さんから監督に打診があって、動き出した企画だそうですね。双葉町の盆歌の担い手をハワイに連れて行こうと考えていた岩根さんから、彼らのことを撮ってほしいといわれて、2015年に双葉町から福島県本宮市に避難している和太鼓づくりの名手・横山久勝さんに会いに行きました。僕は一時帰宅する横山さんに何度も同行しましたが、彼はいろいろ理由をつけて、双葉町の自宅にとどまろうとして、「どうして(本宮に)戻るんだろう」というんです。それを聞いて、この人は双葉町に魂を置いてきているんだなあ、と思って。気持ちを切り替えて避難先で生活している人もいますが、横山さんの、あの魂を引き裂かれた感じに魅かれました。