ジャンルや国を超えて活躍する“新世代津軽三味線”の第一人者。一度聴けば、その迫力と繊細な表現力に魅せられるはず。今回の“会いたい人”は上妻宏光さん。抜群のテクニックと豊かな音楽センスで聴く者を魅了する津軽三味線プレイヤーです。ソロデビュー20周年を記念して、3月4日に古典アルバム『TSUGARU』と、矢野顕子さんとのユニット「やのとあがつま」のファーストアルバム『Asteroid and Butterfly』をリリースしました。アルバムのお話を中心に、その魅力をお届けします!
――タイプがまったく違う2枚のアルバムをリリースした上妻さん。アルバム『TSUGARU』には津軽五大民謡が収められていますね。
「ありきたりかもしれませんが、節目の年ということで、原点を見つめ直したいなと思いまして。ソロだけじゃなく、唄の伴奏を担っていた三味線本来のスタイルにも立ち返りたい、津軽出身の演奏家と一緒にやりたいという思いから、民謡界の重鎮・長谷川勝枝さんに唄、二代目成田雲竹女さんに太鼓をお願いした『津軽じょんから節(中節)』や、津軽三味線界を引っぱってこられた名人・澤田勝秋さんと録音した『津軽じょんから節(旧節~中節~新節)』も収録しています」
――本條秀太郎さんが奏でるつややかな細棹三味線(長唄などで用いる棹が細く胴が小ぶりの三味線) との共演が楽しめるオリジナル曲「南風-HAIYA-」も素敵です。
「細棹三味線と太棹三味線(義太夫節などに使われる棹が太く胴が大ぶりな三味線で、津軽三味線もこれに含まれる)の共演自体なかなかないので、『津軽あいや節』という曲の変遷をドラマチックにメドレーのように繋ぐような形で、なんとか本條さんと一緒にできないかなと考えて書きました。これも今回の新たなトライというか、このアルバムの目玉の一つかなと思っています」
――上妻さんの今の充実ぶりがうかがえる、後世に残すべき伝統芸能としての津軽三味線の魅力が詰まった1枚になっていると感じます。
「ありがとうございます。僕自身、若い頃はテクニックに走ってちょっと速く弾いてしまうところがあったんですが、頭と体が無理なくひとつになってきている感覚があります。派手さはそんなにありませんが、以前のソロアルバムと比べると、多少音色に深みというものが出てきたのかなと。この機会に、シンプルに聴いてもらえるようなアルバムができたらなという思いは、ある程度叶った録音だったと感じています」