歌舞伎俳優ファイル
中村萬太郎
僕の父と兄は女方ですが、僕は骨格が立役向きで、自分の思いとも合致したので、高校生のときに立役として歌舞伎の道を歩んでいくことを選びました。
これまで演じたお役で印象に残っているのは『菅原伝授手習鑑 車引』の梅王丸と『髪結新三』の勝奴です。
梅王丸は、坂東三津五郎のおじさまから教わりました。おじさまは、まさに名コーチで、そのアドバイスは理に適っているだけでなく、僕の捉え方を理解した上で指摘してくださいます。
例えば梅王丸のようなスーパーパワーを出す役というのは、「演者がシャカリキにやろうとすると、観る側にはそんなに大きくは見えない。逆に内側にぐっと込めていったほうが、圧が出る」と教わりました。
それは経験者だからこそご存じだったこと。見ているだけでは決してわかりませんでした。
『菅原伝授手習鑑 車引』の舎人梅王丸。2014年3月、国立劇場。梅王丸は桜丸、松王丸とともに個々が持っている力を存分に発揮して創り上げていくイメージですが、勝奴は新三チームの一員としての連帯感が必要で、新三の空気を感じてどんどん近づけていかなければなりません。やればやるほど発見があるお役なので、いつかまた演らせていただきたいです。
自分の仁(ニン)なのかどうかはわかりませんし、自分からいうのもなんですが、三枚目の役を演じるとお褒めの言葉をいただくことがあります。
〈道行旅路の花聟〉の鷺坂伴内もまた三枚目のお役。初役ですが、ご期待に添えるよう全力で勤めさせていただきます。
中村萬太郎(なかむら・まんたろう)
1989年、東京都出身。父は5代目中村時蔵、兄は4代目中村梅枝。94年6月歌舞伎座で行われた4代目中村時蔵33回忌追善公演の『道行旅路の嫁入』で初代中村萬太郎を名乗り、初舞台。凜とした品格や愛嬌のある持ち味を生かし、立役として活躍。経験を重ねてきた古典作品や舞踊での定評があるが、新作歌舞伎にも挑み、演技の幅も広がっている。
今月の歌舞伎
【歌舞伎座】
五月大歌舞伎
~2021年5月28日
●第一部 11時開演一、『三人吉三巴白浪』 二、新古演劇十種の内『土蜘』
●第二部 14時30分開演『仮名手本忠臣蔵』〈道行旅路の花聟〉〈六段目〉
●第三部 18時20分開演一、『八陣守護城』 二、新歌舞伎十八番の内『春興鏡獅子』
※中村萬太郎さんは第二部の『仮名手本忠臣蔵』〈道行旅路の花聟〉に鷺坂伴内役で出演。
1等席1万5000円ほか
チケットホン松竹:0570(000)489
公演の詳細は歌舞伎公式サイトをご参照ください。
歌舞伎美人
https://www.kabuki-bito.jp
【シアターコクーン】
コクーン歌舞伎 第十七弾『夏祭浪花鑑』
1994年に18世中村勘三郎と演出家・串田和美がタッグを組んで誕生した「コクーン歌舞伎」。古典歌舞伎を読み直し、作品の原点に立ち帰ることでその本質を見出し、数々の話題作が生まれた。
今回の『夏祭浪花鑑』は1996年、2003年、2008年と再演を重ね、アメリカやヨーロッパでも上演されてきた人気作である。中村勘九郎、中村七之助、尾上松也、中村虎之介、中村長三郎、中村鶴松、中村歌女之丞、笹野高史、片岡亀蔵が出演。
~2021年5月30日
14時開演、18時開演(平日) 13時開演、17時開演(土曜、日曜)
1等席1万3500円、2等席8000円、3等席4000円
チケットホン松竹:0570(000)489
公演の詳細はこちら>> 表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/山下シオン 撮影/岡積千可 ヘア&メイク/AKANE
『家庭画報』2021年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。