香りはあなたの力になる 第2回(全9回) 目には見えず形をもたないにもかかわらず、ときに感情を揺さぶり、記憶を鮮明に呼び覚ます「香り」。今という時代にふさわしいのは心に語りかけるような、ときに癒やし、ときに力強く背中を押してくれるものです。今回、女優の安藤サクラさんと訪ねたのは3人の香りのプロフェッショナル。深く知ることで、明日をより輝かせてくれる香りと出会ってみませんか。
前回の記事はこちら>> [Part1] 女優・安藤サクラさんが香りを知る3日間
前回の記事では、香りを探求する手がかりとして、500年の歴史をもつ志野流の若宗匠、蜂谷宗苾さんのもとを訪れ、初めての聞香を体験した安藤サクラさん。
「香りを知る3日間」の2日目は、最先端の研究施設「資生堂グローバルイノベーションセンター」を訪ねます。
【2日目】 香りのサイエンスを知る
訪ねた人 株式会社資生堂ブランド価値開発研究所 濵田千加さん
(安藤さん衣装)ドレス23万8700円/アーデム(メゾン・ディセット) イヤリング1万5400円/トーガ(トーガ 原宿)濵田千加(はまだ・ちか)1988年資生堂に入社。毛髪研究や抗老化薬剤開発に携わり、現・ブランド価値開発研究所グローバル香料開発グループへ。ベネフィーク等の香りを手がけ、現在はザ・ギンザの香りを担当。安藤サクラ(あんどう・さくら)2007年女優デビュー。映画『百円の恋』、NHK連続テレビ小説『まんぷく』ほか数々の作品に出演。2018年『万引き家族』で、2度目の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。映画『ある男』が2022年全国公開予定。香りの秘密を科学的に解き明かす
香りの力を大切に考え、1917(大正6)年、いち早く日本初の本格的な香水「花椿」を世に送り出した資生堂。香りについての理解を深めるため、安藤さんが次に訪れたのは、最先端の研究施設「資生堂グローバルイノベーションセンター」です。
ここでは香りを科学的な側面から捉えた研究が進められており、一階・二階は体験型複合施設として公開されています。
“美のひらめきと出会う場所”をテーマにした資生堂の体験型複合施設「S/PARK」。横浜・みなとみらいの研究開発拠点でもあるグローバルイノベーションセンター内にあり、1階では16Kの巨大LEDディスプレイがお出迎え。迎えてくれたのは、香料の研究開発を担当する濵田千加さんです。さっそく濵田さんとともに、体験型ミュージアム内にある、香りについて学べる展示台へ。
「ほっと癒やされる、気持ちがほぐれる。人が“心地よい”と感じる香りには、心や体、心理行動によい働きがあります」──濵田さん「香りはすべて、化合物である分子でできています。この香り分子が嗅覚レセプターにくっつき、その刺激が信号となって脳に送られて、人はその香りを感知します。また、バラにもオレンジにも紅茶にも、同じ香り分子が入っているんですよ」と濵田さん。
「同じ香りでも人によって感じ方が違うと思いますが、強く感じる香りは、今自分が必要としている香りなんでしょうか?」。
そんな安藤さんの質問には、「香りには自律神経を整える働きがあり、強いというより心地よく感じるものには、なんらかの効果が期待できそうです」との回答が。
心身によい影響を与える科学的効果・効能と、日々手に取りたくなる心地よさを追求し、調整を幾度も繰り返しながら、化粧品の香りは開発されています。香りは心身に働きかける。誰もが感じていたことを、科学的な根拠に基づいて検証する「アロマコロジー」研究にも、健康志向の高まりを背景に1984年から着手。資生堂はそのリーダー的存在であり続けてきました。
「香りのバリア機能回復促進や皮脂抑制をはじめとしたスキンケア効果を実証したり、香りによる交感神経活性化の発見はスリミング化粧品の大ヒットにつながりました」
アロマコロジー研究の可能性を追求
近年ではより成分に特化した研究も強化しており、「香りの心や肌への効果は未解明の部分も多いのですが、心地よい香りに囲まれることは、私たちに必ずよい効果をもたらしてくれると信じています」
フローラルやシトラス、ハチミツなどから好きな香りを選んでブレンドする、手軽な調香に挑戦。「それぞれの香りがもつ目的を知ったら、毎日の気持ちにもっと寄り添ってくれるはず」──安藤さん2011年の震災後には、復興支援の一環として緊張や落ち込み、睡眠の不調を改善する香りも開発しました。また、濵田さんが手がけた、気分を落ち着かせる「カトレア・エレメント」の香りは、安藤さんがミューズを務めるスキンケア「ベネフィーク」の、上質で爽やかな香りに採用されています。
「さまざまな素材の香りの力が、自分の心身の状態に合わせて日々どこかにフィットしているのかも。あらゆるところから手を差し伸べてくれていることを知って、明日からの香りの感じ方が変わりそうです」と安藤さん。
表示価格はすべて税込みです。
撮影/浅井佳代子 ヘア/西村浩一〈VOW-VOW〉 メイク/村松朋広〈関川事務所〉 スタイリング/遠藤彩香 取材・文/巽 香
『家庭画報』2021年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。