長谷川父子が語る認知症との向き合い方・寄り添い方 第7回 ある程度、認知症が進行した人に併発しやすいのが「夜間せん妄」です。せん妄が起こると夜中に興奮したり、幻視や幻聴に怯えたりするため、同居する家族は、その対応で睡眠不足に悩まされることも少なくありません。せん妄の対処法を含め、昼夜逆転を予防するポイントについても伺います。
前回の記事はこちら>> 昼夜が逆転し、夜になると興奮する
長谷川 洋(はせがわ・ひろし)さん長谷川診療所院長。1970年東京都生まれ。聖マリアンナ医科大学東横病院精神科主任医長を経て、2006年に長谷川診療所を開院。地域に生きる精神科医として小児から高齢者まで、さまざまな精神疾患の治療とケアに従事。聖マリアンナ医科大学非常勤講師、川崎市精神科医会理事、神奈川県精神神経科診療所協会副会長などを務める。長谷川和夫さんの長男。写真提供/長谷川 洋さん長谷川 和夫(はせがわ・かずお)さん認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長。1929年愛知県生まれ。1974年、認知症診断の指標となる「長谷川式認知症スケール」を開発。「パーソン・センタード・ケア」の普及に力を注ぎ、認知症ケアの第一人者としても知られる。「痴呆」から「認知症」への名称変更の際も尽力。2017年に自らの認知症を公表し、社会的反響を呼ぶ。2021年11月13日逝去。享年92。せん妄への対応の基本は、本人の安全を確保すること
昼夜が逆転し夜中になると認知症の人が興奮して騒いだり、「知らない人が部屋の中にいる」などと怯えて家族に助けを求めてきたりするようなことがしばしば起こります。そのため、介護者が睡眠不足になり、疲労困憊することも少なくありません。
このような状態になるのは夕方から夜にかけて混乱してくる「夜間せん妄」を併発しているからです。認知症の人の生活リズムを整えて昼間に活動できるような環境づくりにも努めましょう。──洋さん
認知症の種類にかかわらず、ある程度進行している人に起こりやすく、その主な原因は夕方から夜にかけて混乱をきたす「夜間せん妄」です。
せん妄は意識障害の一種で、意識レベルが低下して寝ぼけたような状態になることをいいます。興奮して大声で騒いだりするほか、実在しないものが見えたり聞こえたりする幻視・幻聴を伴うことも多いですが、レビー小体型認知症でも幻視・幻聴が出現するため、その見分けがつきにくい面もあります。
せん妄の要因は大きく3つに分類され、認知機能障害はハイリスク因子の一つです(下表)。
せん妄が起こりやすくなる要因
参考文献:井上真一郎『精神科臨床 Legato』 5 2019 P18-23しかし、認知症がなくても脳血管障害、心不全、感染症、糖尿病、アルコール中毒、脱水症といった身体疾患があるとせん妄を起こしやすくなります。
市販の風邪薬や睡眠薬といった薬剤もせん妄を起こしやすくなる要因の一つです。また、これらの薬剤を服用した際、朝になっても眠気が強く残ったり、昼間もうとうと眠ったりするようなことがあると、生活リズムが乱れ、昼夜逆転につながります。主治医と相談し、服薬を中止する、服用量を減らす、リスクの低い薬剤に変更するなどの対策が必要です。
メラトニン受容体を刺激するメラトニン受容体作動薬や覚醒維持に関与するオレキシンの働きを阻害するオレキシン受容体拮抗薬といった新しいタイプの睡眠薬は、従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬よりもせん妄のリスクが低く、その予防効果も期待できるとの報告があります。
薬剤を使うときは興奮する前に服用するのがポイントで、認知症の人がそわそわし始める夕方の時間帯に薬を飲めるようにサポートしましょう。