松岡修造の人生百年時代の“健やかに生きる”を応援する「健康画報」 自らの使命を「人類の孤独の解消」といい、病気や障がいで外出困難な人たちが遠隔操作できる“分身ロボット”を開発してきた吉藤オリィさん。2021年は寝たきりの人でもロボットを通して働ける画期的なカフェをオープンし、大きな話題を呼びました。超高齢化社会において目を背けてはいられない「寝たきりの先」について、松岡さんと一緒に考えてみませんか。
前回の記事はこちら>> 「分身ロボットカフェDAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」にて。中央の「OriHime-D(オリヒメ ディー)」を遠隔操作するのは、筋強直性ジストロフィーを患う静岡県在住のちいさん。ロボットコミュニケーター 吉藤オリィさん
松岡さんから「頭の回転が速いから、話すスピードも速いんですね!」と感心され、「これでも意識的にゆっくり話したつもりなんですけど」と苦笑していた吉藤さん。吉藤オリィさん(よしふじ・おりぃ)1987年奈良県生まれ。「オリィ研究所」代表取締役所長。3年半の不登校経験を経て、高校時代に電動車椅子の新機構の発明に携わり、高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞、インテル国際学生科学技術フェア(ISEF)グランドアワード3位に輝く。早稲田大学在学中に開発した分身ロボット「OriHime」を多くの人に使ってもらうべく、2012年に「オリィ研究所」を設立。2021年に東京・日本橋に「分身ロボットカフェDAWN ver.β」をオープン。孤独になる怖さ、なくすことはできますか?── 松岡さん
「寝たきりになっても友達はつくれます。まずはそれを知ってもらえたら」── 吉藤さん
松岡 4年ぶりの再会ですね! 今、超長寿時代になり、誰もがずっと健康でありたいと思う一方で、孤独になることを恐れていると感じます。オリィさんは引きこもっていた10代の頃、非常に孤独だったと、前に話してくださいました。そのときに感じた孤独とはどんなものでしたか。
吉藤 私が引きこもっていた3年半に感じていたのは、どこにも居場所がない、誰からも必要とされていないということです。何が辛いって、「ありがとう」がいえなくなるんですね。
松岡 「ありがとう」といえない? それはなぜですか?
吉藤 人からしてもらってばかりで、毎日「ありがとう」といい続けていると、なんだか申しわけなくなってくるんです。我々が「ありがとう」といい合えるのは、「おたがいさま」の関係が成り立っているからなので。
松岡 そういうことはあまり考えたことがなかったです。
吉藤 おじいちゃんおばあちゃんに何かしてあげたとき、「ごめんね」「もういいからね」といわれることがあるじゃないですか。
松岡 ありますね。
吉藤 私はあの気持ちがよくわかるんです。してもらってばかりで返せていないと、謝る言葉のほうがいいやすくなる。私の場合は「ありがとう」が「ありがとうございます」になり、「すみません」になり、「申しわけございません」になっていきました。
松岡 そこからの突破口と、今のお仕事に何かつながりはありますか?
「寝たきりの先」に憧れをつくるために
吉藤 はい。私が復活できたのは、夢中になれることと、この人みたいになりたいと憧れる師匠と出会えたためです。「勉強して、先生がいる工業高校に進学する」というロードマップができた。高校3年間でロボットがつくれるようになって、アメリカの学会でも認められ、いろんな人に出会えました。そのおかげで、今があると思っています。だから私は、「出会いと憧れ」は人生で絶やしてはいけないと思っているんです。小学生は中学生に、中学生は高校生にと、我々はいつも自分の先を行く人に憧れを持っていたはずですが、高齢で寝たきりの人を見て、憧れを持つ人はいないですよね。
松岡 そうですね。私たちは高齢の家族に対して、「絶対に倒れないでね。倒れて寝たきりになったら終わりよ」などといいがちです。そういう考えが世間の常識になっている気がします。
吉藤 確かにそうですね。ただ、統計データを見る限り、平均寿命と健康寿命の間に男性は約9年、女性は約12年の隔たりがある。つまり、生きている限り、健康を損ない、寝たきりになる可能性は高い。「寝たきりの先」に憧れがないならつくろうぜ、といって、2021年オープンしたのが「分身ロボットカフェ」です。目指しているのは、将来寝たきりになったとき、働きたいと思える場所。現在、病気や障がいで外出困難な70人のパイロットたちが交代で働いています。
松岡 パイロットとは、どういうお仕事なんですか。
吉藤 自宅からインターネットを通じて分身ロボットを遠隔操作して、お客さまにメニューの説明をしたり、コーヒーを運んだりといったサービスを提供することです。彼らは、僕からすると、寝たきりの患者ではなく、「寝たきりの先輩」。教わることがすごく多いです。パイロットという名称は、入院中に「OriHime」を使って院内学級に通っていた子が、退院して学校に戻ったとき、同級生に「俺、入院中、ロボットのパイロットだったんだぜ!」と誇らしげにいっていたという話を聞いたのがきっかけです。ちなみにその子は工業高校に進学しました。
松岡 それでパイロットなんですか! 素敵なお話ですね。