〔解説してくださるかた〕清水猛史(しみず・たけし)先生滋賀医科大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部 外科学講座教授。1983年三重大学医学部卒業。1988年米国国立環境衛生科学研究所に留学。帰国後、三重大学医学部附属病院講師、同助教授を経て、2004年に滋賀医科大学医学部教授(耳鼻咽喉科)に就任。2020年から同大学医学科長を務める。日本鼻科学会理事、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会理事。空気の浄化や加湿を担う鼻腔や副鼻腔に炎症が起こる
鼻は空気の通り道であり、呼吸のための重要な器官です。また、においをかぐ機能があります。
鼻の穴から入った空気は鼻腔を経て、咽頭、気管、肺に達します。鼻の奥や目の近くには鼻腔とつながった副鼻腔という空洞があります。
鼻腔や副鼻腔の壁の表面にある粘膜は粘液を分泌し、びっしりと生えている線毛が粘液を咽頭側に送り出します。こうして、空気中の埃や花粉などの異物をとらえて除去するのです。
また、この粘液は鼻を通る空気に適当な湿り気を与えます。つまり、鼻腔や副鼻腔は空気清浄機や加湿器のような役割を担っているともいえます。
この鼻腔や副鼻腔に炎症が起こったものが副鼻腔炎(鼻副鼻腔炎)です。粘りのある黄緑色の鼻水(膿性鼻汁)が出る、鼻水が止まらない(鼻漏)、鼻水がのどに流れる(後鼻漏)、鼻がつまる、においがわからないといった症状があらわれます。
滋賀医科大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座 教授の清水猛史先生は、「副鼻腔炎にはさまざまなタイプがあり、似たような症状でも均一の疾患ではありません」と説明します(後述)。
アレルギー性鼻炎や老人性鼻漏など、副鼻腔炎同様、鼻汁が多く出て鼻がつまる病気では透明の鼻水が出るのが特徴で、副鼻腔炎ではありません。
副鼻腔炎は、蓄膿症と呼ばれることもあります。「これは一般的な呼称で、実際には副鼻腔だけでなく、鼻腔にも炎症が起こっているため、医学的には鼻副鼻腔炎といいます。日本鼻科学会では、今後、さまざまな場面で副鼻腔炎を鼻副鼻腔炎に統一していくことになっています」と清水先生。この記事では一般によく用いられる「副鼻腔炎」を使います。
清水先生によると、副鼻腔炎になる人に男女差はほとんどありません。また、遺伝の影響はあまり強くないと考えられています。
「喫煙は粘膜に炎症を起こしやすいため、副鼻腔炎は喫煙者に多い傾向があります。また、粉塵を大量に吸い込むと罹患率が上がります。2001年の米国同時多発テロ事件の際、ニューヨークのワールドトレードセンターで消火にあたった消防士に後で副鼻腔炎が増えたことが知られています」。
次回は副鼻腔炎が起こる原因と治療法について詳しくご紹介します。
副鼻腔炎の特徴
●主として風邪がきっかけになる急性副鼻腔炎と、症状が12週間以上続く慢性副鼻腔炎がある
●黄緑色の粘りのある鼻汁、鼻づまり、においがわからない嗅覚障害が主な症状
●急性副鼻腔炎では、頭痛、鼻や目の周辺の痛みが出る場合がある
●鼻の中にポリープができているケースもある
●最近、治りにくい好酸球性副鼻腔炎が増えている