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現代最高のヴェルディ音楽の表現者。巨匠リッカルド・ムーティが語る「ヴェルディへの敬愛」

2023.01.06

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「ヴェルディ」の魅力 第2回(全8回) イタリアの作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディ。アニバーサリーイヤーを祝し、不世出の奇才の深い魅力に迫ります。前回の記事はこちら>>
ヴェルディのオペラに造詣が深く、その演奏の第一人者である指揮者リッカルド・ムーティ氏に、作品に対する想いやご自身とヴェルディとの出会い、また最近のオペラに見られる“読み替え(作品の設定を変更する)”などの斬新な演出に対するご意見を伺いました。

巨匠リッカルド・ムーティが語る ヴェルディへの敬愛

リッカルド・ムーティ
Riccardo Muti 1941年、イタリア・ナポリに生まれる。世界で最も称賛されている指揮者の一人。元ミラノ・スカラ座音楽監督。ヴェルディの研究者でもあり、著書に『リッカルド・ムーティ、イタリアの心ヴェルディを語る』がある。©Todd Rosenberg Photography - courtesy of riccardomutimusic.com

“ヴェルディのメッセージは過去も現在もそして未来も生き続けることでしょう”(リッカルド・ムーティ)


ヴェルディの人生は、まさに苦悩の連続だったといえるでしょう。その自身の経験があったからこそ、彼は喜びや苦しみ、嘆きなど人間の感情を音楽によって表現することができたのだと思います。ヴェルディのオペラ作品には常に愛と希望というメッセージが込められています。

どんな悲劇でも、フィナーレでは必ず彼が天上からの救いを与えてくれているのです。もちろんこの天上というのはカトリックやその他の宗教的な意味ではありません。『リゴレット』※1のジルダ、『仮面舞踏会』※2のリッカルド、ほんの一例ですが、登場人物たちはこの世の苦しみから魂が解放されて、すべてを許し、許されて幕となります。

※1『リゴレット』大切な一人娘を汚された道化師の父リゴレットの葛藤を描いた。※2『仮面舞踏会』親友の妻への秘めた愛に苦悩する男の劇的なドラマ。

ヴェルディが亡くなったとき、当時の有名な詩人であり作家であったガブリエレ・ダンヌンツィオがいった言葉があります。“Pianse ed amò per tutti(すべての人々のために泣き、そして愛した)”です。

お互いに理解し合い、愛することは人々の心をつなげます。愛する気持ちが世界の平和につながっていくのですから、ヴェルディのメッセージは過去も現在もそして将来も、ずっと生き続けることでしょう。『シモン・ボッカネグラ』※3の劇中では、シモン・ボッカネグラが総督として人民の暴動を抑えたときにこう叫びます。「私は平和をと叫びながら進んでいく。愛をと叫びながら進んでいく」。まさに今日でも世界の指導者たちのために重要な言葉ですよね。

※3『シモン・ボッカネグラ』14世紀のジェノヴァに実在した名総督の人生。

私は12歳頃から本格的に音楽の勉強を始めました。父は医者でしたが、オペラ好き、特にヴェルディの崇拝者でした。テノールの美しい声で『レクイエム』※4や『オテロ』※5、『運命の力』※6などのアリアを家で歌っていました。父の歌の伴奏をしていたので、日常生活でも常にヴェルディの音楽が溢れる環境で育ちました。そして指揮者になって作品を深く勉強すればするほど、ヴェルディに魅了されるようになりました。

※4『レクイエム』イタリアの文豪マンゾーニへの美しき追悼曲。 ※5『オテロ』愛妻の不貞疑惑に苦しむ英雄の愛憎劇。 ※6『運命の力』悲運に振り回される純粋な恋人たちの、壮大な仇討ち物語。

ヴェルディは劇場的センスが豊かな作曲家です。ドラマが音楽で表現されているのでそれを演出家が説明する必要はないのです。オペラの演出は音楽から生まれてくるべきで、反音楽的になってはなりません。

演出家が自分勝手な想像でストーリーを考え出す“読み替え演出”は、作曲家や原作者、ひいては観客への単なる「挑発」でしかありません。台本に書かれた言葉と音楽で内容が十分に伝わるはずのところを、舞台上で訳がわからないことが起こっていると、観客は理解するどころかかえって混乱してしまいます。

私は、現代的な演出を否定しているのではありません。ドラマをより深く理解できるように見せるのが演出なのです。台本を読み込むことなく舞台上の“主役”が演出家になってしまうと、第一に疎外されるのは作曲家です。演出は決して音楽を邪魔するものであってはなりません。私はこれからもヴェルディの意思を重んじて、さらに深く理解しつつ、観客の心に響く演奏を届けられるよう努めたいと思っています。

巨匠リッカルド・ムーティが語る ヴェルディへの敬愛世界各国で精力的に演奏活動を展開するマエストロ。2023年春には、『東京・春・音楽祭2023』に出演のため来日予定。ヴェルディの名作『仮面舞踏会』の曲を演奏会形式(字幕付き)で指揮する。
取材・文/田口道子 編集協力/三宅 暁(編輯舎) 取材協力/日本ヴェルディ協会 市浦純子
『家庭画報』2023年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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