新連載「がんまるごと大百科」。2人に1人はがんにかかる時代、正しい情報を知りましょう

女性の2人に1人はがんにかかる時代です

若尾文彦（わかお・ふみひこ）先生

国立がん研究センター がん対策研究所 事業統括。横浜市立大学医学部卒業。1988年、国立がんセンター中央病院に入職。放射線診断部医長、がん対策情報センターセンター長などを経て、2021年より現職。信頼できるがん情報の発信と普及、がん対策評価などに取り組む。

2人に1人ががんにかかると知っていたのはわずか3割強

ご存じのように、がんは脳卒中、心臓病とともに3大疾病の一つで、年間約100万人ががんと診断されています。日本人が生涯でがんになる確率は男性で65.5パーセント、女性で51.2パーセントと2人に1人はがんにかかる時代です。


一方、2016年に内閣府が行ったがん対策に関する世論調査によると、この事実を知っていたのはわずか３割強でした。多くの人は自分には関係のない病気だと思い込んでいるようです。

「こうしたがんに関する認識不足から、一般の人にとってがんの告知をされるのは出合うことのない大事件になってしまうのです」と国立がん研究センターがん対策研究所で、さまざまながん対策事業を統括する若尾文彦先生は指摘します。

そして、がんを告知されると頭の中が真っ白になり、科学的根拠に基づいた標準治療（多くの臨床試験の結果をもとに専門家が検討を行い、現段階で最良の方法であると合意されている治療法）ではなく、インターネットなどで見つけた自由診療を選択する人もいるといいます。

「しかし、インターネットをはじめ、世の中には科学的根拠に基づかない情報が溢れており、医師や医療機関であっても間違った情報を発信していることがあるため注意が必要です」と若尾先生は警告します。

将来のリスクに備えるには正しく認識することが重要

若尾先生によると、インターネットでがんに関連したワードで検索をかけ、上位20のがん情報の信頼性を調べた報告（2018年）によると、247サイト中、正しい情報が掲載されていたのはわずか10パーセント程度で、明らかに間違っていて害になる情報は全体の38.5パーセントを占めていたそうです。

また、「がんと診断されると治療に専念したいと自ら仕事を辞めてしまう人も少なくありません。けれど、今やがんは不治の病などではなく、全体の5年生存率（がんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合）は60パーセントを超えるようになり、がんになっても長生きする可能性は年々高まっています」と若尾先生はいいます。

がんは一筋縄ではいかない病気ですが、必要以上に恐れず、落ち着いて行動するには、いつかは自分もかかることを想定し備えておくことが肝心です。そのためには、まずがんに関する正しい知識を得ることが重要です。

---

がんについて知れば安心
将来のリスクに備える

（1）がんになる確率
女性 生涯では51.2パーセント
男性 生涯では65.5パーセント
→他人事ではありません。自分事として捉えましょう

（2）がん全体の5年生存率
67.5パーセント（男性 64.3パーセント 女性 71.8パーセント）
→がんになっても長生きする人が増えています

（3）がんの原因
細胞の遺伝子が傷ついて変化する
特定の感染、喫煙、受動喫煙、飲酒、塩分摂取、運動不足などがリスク因子に
→日常の生活習慣とのかかわりが深い病気です。リスク因子を取り除きつつ、がん検診を定期的に受けましょう

（4）がん情報
インターネットで得られる正しい情報は10パーセント程度
→がんとの闘いは情報戦。信頼できる情報源を知っておきましょう