天野惠子先生のすこやか女性外来 第9回(02)心臓は命に直結する臓器だけに、ちょっとした痛みや動悸でも心配になるものです。今回取り上げるのは、心臓の血管の異常で起きる狭心症や心筋梗塞。心臓と血管の基本的な構造から、男性と女性では症状が異なること、そして天野先生のご専門で更年期女性に多い「微小血管狭心症」の話へと続きます。
前回の記事はこちら>> 女性の「狭心症・心筋梗塞」の特徴とは?
更年期から気をつけたい心臓の血管にかかわる病気
天野惠子(あまの・けいこ)先生静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事、NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。1942年生まれ。1967年東京大学医学部卒業。専門は循環器内科。東京大学講師、東京水産大学(現・東京海洋大学)教授を経て、2002年千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長。2009年より静風荘病院にて女性外来を開始。心臓の表面を覆う血管
右と左の冠動脈が心筋に酸素と栄養を運ぶ
心臓は心筋という筋肉でできています。心筋は、ポンプのような働きで縮んだり広がったりしながら血液を全身に送り出しています。心筋が規則正しく動くために必要な酸素と栄養を運ぶのが、心臓の表面を覆うかたちで走る冠動脈。
●心臓表面の冠動脈上図のように「右冠動脈」と、「左冠動脈」から分かれて前側に延びる「左前下行枝」、後ろ側に回る「左回旋枝」があり、そこからさらに枝分かれした細かい血管が心筋の内部に入り込んでいます。
心筋に十分な血液が届かなくなる虚血性心疾患。その代表が狭心症と心筋梗塞
冠動脈が狭くなったり詰まったりして心筋に十分な血液が行かなくなる病気を「虚血性心疾患」といいます。
狭心症は血管の痙攣や動脈硬化(アテローム硬化)によって血管が狭くなり、心筋に必要な酸素が一時的に不足して胸痛などの発作を起こす病気。運動時や興奮時などに起こりやすく、通常は数分から十数分の安静で治まります。
心筋梗塞は血管が塞がり、酸素が行かなくなった心筋が壊死する病気で、多くの場合30分以上の発作が続きます。
●血管内に生じる異常
正常な血管
冠動脈の一部が痙攣して収縮し血管が狭くなる→
冠攣縮性狭心症内膜に脂肪が粥状にたまり(プラーク)、血管壁が厚くなり血管が狭くなる(アテローム硬化)→
労作性狭心症プラークが破れて血栓(血の塊)を生じ、血管が詰まる→
心筋梗塞閉経前はほとんど心配ない。エストロゲンが動脈硬化を抑えてくれる
閉経前の女性は虚血性心疾患になる心配はほとんどありません。女性ホルモンのエストロゲンに動脈硬化を抑えて血管を守る作用があるからです。
●女性の患者数のピークは75歳から、男性は70歳から
狭心症男女別患者数(令和2年)厚生労働省「令和2年患者調査全国編報告書第37表」より作成更年期以降、エストロゲンの恩恵が失われると、動脈硬化による狭心症や心筋梗塞のリスクは少しずつ増えていきますが、女性の患者数がピークを迎えるのは男性よりも遅めです。
ただし、女性は男性よりも喫煙の悪影響を受けやすく、喫煙習慣のある女性の心筋梗塞発症率は非喫煙女性の8倍といわれています。
*NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」では、女性外来を開設している医療機関(2018年現在約300か所)のリストを公開。
URL:
http://www.nahw.or.jp/hospital-info*「女性外来オンライン」(天野惠子先生主宰)では、天野先生ご自身が厳選した女性の健康の回復や維持に役立つ信頼性の高い情報を発信しています。
公式サイト「女性外来オンライン」:
https://joseigairai.online/YouTube
「女性外来オンラインチャンネル」はこちら>> イラスト/佐々木 公〈sunny side〉 取材・文/浅原須美
『家庭画報』2023年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。