2月 春を迎える節分の飾り
文=岡田 歩(造花工藝作家)
松の内の華やぎもとうに過ぎ、ようやく日々の暮らしを取り戻しつつあります。
例年のごとく、年の瀬は新年を迎える準備で慌ただしく、年が明けても持ち越してしまった仕事や行事をこなすのに気忙しく、今頃になって新年を無事に迎えられた安堵感に包まれるのは私だけでしょうか。
いつからか「節分」の頃に、心の中でひとり静かに一年のスタートを迎えるようになりました。
2023年はこの「飾り花」の連載が私にとっての新しいスタートとなります。造花工藝作家として、装いに華やぎをもたらすコサージュなどを制作してきましたが、この連載では暮らしの中で季節を賞翫する、オブジェとしての飾り花の作品を紹介していきたいと思います。
けがれのない清らかな心で新しいサイクルを迎えるために、折り目正しい白の折形の節分飾りをこしらえました。連載の幕開けとなる今回のテーマは「節分」です。この行事を象徴する柊の枝葉と大豆を、手染めした布を用いてこしらえました。柊の葉は正絹のサテンを、大豆の莢(さや)は起毛した2種類の布を素材に、節分飾りにしました。
二十四節気によると2月の初めの立春から春になり、一年のサイクルが始まるそうです。季節を分ける「節分」は、もともと立春、立夏、立秋、立冬の前日を指したといわれますが、現代では、一年の始まりである立春の前日が「節分」とされています。
新しい季節を迎えるために邪気を祓(はら)う節分の行事に重要な役割を果たすのが「豆」。「魔滅(まめ)」に音が通じる故、という説をよく耳にします。年の数だけ食べる「煎り豆」も諸説ありますが、「魔の眼を射る」という意味もあるとか。
豆まきや煎り豆を食べるほかに、柊の若木の枝を玄関先に飾る厄除けの風習もあります。柊の棘状の葉は鬼の目を刺して、鬼の侵入を防ぐと伝えられています。この柊はクリスマスに用いられる赤い実のなるモチノキ科の西洋柊ではなく、日本在来のモクセイ科の柊です。日本の柊は秋になると白い小さな花が咲き、金木犀に似たほのかな甘い香りを漂わせ、黒みを帯びた実がなります。
葉の裏と表、それぞれ異なる緑の濃淡に染め分けた柊の葉、大豆を収穫したあとの莢(豆殻)は一つひとつ枯れた表情を、絵筆を用いて描くように染めました。葉や莢の細工には熱したコテを使用しますが、数十種類ある形の中から、葉脈は薙刀のように刃先に反りのあるもの、莢は先の丸いものと、コテを使い分けています。いにしえから伝わる季節の節目の行事を紐解くと、人々が無病息災や平和を願う祈りの気持ちを、身近にある草花に重ね、心の拠りどころにしてきたことに気づかされます。
移り変わりゆく季節を草花で迎えることの大切さを胸に、心を込めて草花の作品をこしらえること――私にできることといえばそれだけですが、ささやかながら皆さまの日々の癒やしにつながればと願っています。
岡田 歩(おかだ・あゆみ)
造花工藝作家
物を作る環境で育ち幼少期より緻密で繊細な手仕事を好む。“テキスタイルの表現”という観点により、独自の色彩感覚と感性を活かし造花作品の制作に取り組む。花びら一枚一枚を作り出すための裁断、染色、成形などの作業工程は、すべて手作業によるもの。
URL:
https://www.ayumi-okada.com