5つの健康習慣を実践してがんをできるだけ予防する
井上真奈美(いのうえ・まなみ)先生国立がん研究センター がん対策研究所 予防研究部 部長。1990年筑波大学医学専門学群卒業、1995年名古屋大学にて博士号(医学)取得。1996年米国ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程修了。愛知県がんセンター研究所、東京大学大学院医学系研究科寄付講座特任教授等を経て、2021年より現職。がんになりにくい習慣などが追跡調査からわかってきた
がんの罹患と生活習慣や体格といった要因との関係は世界中で長年研究されてきました。
この分野で研究を続ける、国立がん研究センター がん対策研究所 予防研究部 部長の井上真奈美先生は、近年、これまでの調査データが積み重なり、計算方法の進展などもあって、「日本人のための科学的根拠のある予防法が明らかになってきました」と話します。
科学的根拠に基づく日本人のがん予防としては、現在、禁煙、節酒、食習慣の改善、身体活動、適正体重の維持の5つの健康習慣が挙げられています。さらには感染のコントロールも重要です。今回はこれらの要因とがんの関連について、井上先生に解説していただきます。
なお、ここで紹介するがん予防に関連する要因は、がんになっていない人の追跡調査によるデータが主であり、すでにがんになった人の再発の予防に関するデータは含まれていません。
肝炎ウイルスやピロリ菌に感染していないかを確認する
井上先生は、女性のがんの予防に大切なこととして、感染のチェックを挙げます。下のグラフのように女性のがんの要因として最も多いとされるのが感染なのです。
〔日本人女性のがんの原因は?〕
感染、喫煙や飲酒が女性のがんの主な要因
*ほかの項目の合計の数値ではなく、2つ以上の生活習慣が複合して原因となる場合も含めた数値。Inoue M,et al.Glob.Health Med.,2022; 4(1):26-36.を参考に作成2015年のがんの罹患数から推計された女性のがんの要因。がんの25.3%はグラフ内に挙げられている要因が関係しています。逆にいえば、がんの4分の3は、避けられない、またはよく解明されていない要因で起こるということです。
とはいえ、自分でできる禁煙、節酒、塩辛いものやあつあつのものを食べないといった食習慣、適正体重の維持、さらに肝炎ウイルスやヘリコバクターピロリの感染の有無のチェックなどでさらにリスクを下げておきたいものです。
例えば、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染すると肝臓がんのリスクが上がります。
胃がんは細菌の一種であるヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)感染との関係が確実です。健康診断などで肝炎ウイルスやヘリコバクターピロリに感染していないかどうかを調べておくことは大切です。
「肝炎ウイルスの感染では慢性肝炎や肝硬変の時期を経て、がんに進みます。ウイルス感染の有無をチェックし、感染がわかったら肝臓がんに至る前に早く治療を受けていただきたいですね。ヘリコバクターピロリに感染している場合にも除菌をするかどうかを医師と相談してください」。
また、子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関連します。多くの女性が性交渉などによる皮膚の接触を通じてHPVに感染しますが、一過性で終わることが多く、感染が持続した場合にがんが発生すると考えられています。定期的に子宮頸がん検診を受け、早期発見することが大切です。
HPVワクチンは、HPVのなかでも子宮頸がんの形成に関連が強い16型と18型の感染を防ぐもので、現在は、小学6年生から高校1年生くらいの女性に接種することが勧奨されています。市町村が管轄しており、無料です。期間をあけて3回の接種が必要になります。
がんを促進する・がんを予防する要因を知っておこう
(1)がんに関連するウイルスや細菌に感染していないかをチェック肝臓がんの原因となるB型肝炎・C型肝炎のウイルス、胃がんの原因となるヘリコバクターピロリに感染していないかを健康診断などでチェックする。
(2)科学的根拠のある、がん予防につながる健康習慣●禁煙する・受動喫煙を避ける
●お酒を飲みすぎない
●減塩・熱い飲食物は冷ましてから・野菜と果物を摂取する
●体を動かす
●適正体重を保つ
取材・文/小島あゆみ
『家庭画報』2023年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。