がんまるごと大百科 第2回【予防編】(02) 連載第1回では、日本人女性が生涯にがんになる確率は約5割で、2人に1人ががんになることを紹介しました。がんは身近な病気です。では、がんを予防するにはどうすればいいのでしょうか。第2回は、科学的根拠に基づく、がんの予防法を取り上げます。
前回の記事はこちら>> 5つの健康習慣を実践してがんをできるだけ予防する
井上真奈美(いのうえ・まなみ)先生国立がん研究センター がん対策研究所 予防研究部 部長。1990年筑波大学医学専門学群卒業、1995年名古屋大学にて博士号(医学)取得。1996年米国ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程修了。愛知県がんセンター研究所、東京大学大学院医学系研究科寄付講座特任教授等を経て、2021年より現職。禁煙や節酒が重要。嗜好品の摂り方をチェック
先述の日本人のがん予防として推奨される健康習慣5つ(禁煙、節酒、食習慣の改善、身体活動、適正体重の維持)のなかでも禁煙は重要です。
喫煙すると、食道、肺、胃、膵臓、肝臓、頭頸部、子宮頸部、膀胱、大腸のがんのリスクは確実に上がります。
「自らの喫煙だけでなく、周囲からの受動喫煙によって肺がんのリスクも上がります」。加熱式たばこや電子たばこにも発がん物質は含まれており、やはり禁煙は必要で、受動喫煙を避けるに越したことはありません。
「喫煙している分、例えば野菜や果物を食べるなど、ほかの生活習慣をよくすればいいかと思うかもしれませんが、喫煙や受動喫煙の害はそれではカバーできません」。
飲酒は、適量を超えると肝臓、大腸、食道のがんのリスクを上げます。
日本人男性で、1日当たり、日本酒1合(180ml)、ビール大瓶1本(633ml)、焼酎や泡盛0.6合(100ml)、ウイスキーやブランデーダブル1杯(60ml)、ワイングラス2杯(240ml)のいずれかを超えて毎日飲む習慣があるとリスクが高くなります。
「女性は男性よりも体格や肝臓が小さいこともあり、少ない量でも影響があります。がんに限っていえば、全くアルコールを飲まないのが最も低リスクです。ただ、循環器疾患では少量の飲酒が予防につながるとのデータもあり、私たちは節酒を呼びかけています」。
特にお酒に弱く(アルコールを分解する過程で作用するアルデヒド分解酵素2の働きが弱い)、飲むと赤くなる人が大量にお酒を飲むようになると、全く飲まない人に比べて食道がんのリスクが約50倍になると報告されています。
食生活では、減塩、熱い飲食物を避けること、野菜や果物の摂取が挙げられます。
すじこ、イクラといった塩分濃度の高い食品をよく食べる人は胃がんのリスクが上がります。成人女性の1日の塩分摂取量の推奨値は6.5グラム未満です。薄味を心がけ、加工食品は表示を見て選びます。
また、熱い飲食物は食道がんのリスクを上げることがほぼ確実です。少し冷ましてから摂りましょう。
野菜や果物を十分に摂取すると食道がんのリスクが下がることがほぼ確実で、胃がんではリスク低下の可能性があります。
1日に野菜と果物を合わせて400グラム以上摂るとよいとされており、野菜を小鉢で5皿、果物を1皿食べるとおおよそ満たすことができます。
〔自分のがんリスクをチェックしよう〕
がんや脳卒中・循環器疾患のリスクを知る
国立がん研究センター がん対策研究所が長年の研究成果を踏まえて制作した「がんリスクチェック」が公開されています。スマートフォンやタブレット、パソコンを使い、生活習慣や身長・体重などを入力するだけ。利用は無料です。
がんを予防する5つの健康習慣によるがんのリスクのチェックのほか、大腸がん、胃がん、脳卒中、がんと循環器の病気、循環器疾患のそれぞれの自分のリスクを知ることができます。対象年齢はリスクチェックの種類にもよりますが、おおむね40~69歳です。
●国立がん研究センターがん対策研究所「がんリスクチェック」URL:
https://epi.ncc.go.jp/riskcheck/ 取材・文/小島あゆみ
『家庭画報』2023年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。