がんまるごと大百科 第2回【予防編】(03) 連載第1回では、日本人女性が生涯にがんになる確率は約5割で、2人に1人ががんになることを紹介しました。がんは身近な病気です。では、がんを予防するにはどうすればいいのでしょうか。第2回は、科学的根拠に基づく、がんの予防法を取り上げます。
前回の記事はこちら>> 5つの健康習慣を実践してがんをできるだけ予防する
井上真奈美(いのうえ・まなみ)先生国立がん研究センター がん対策研究所 予防研究部 部長。1990年筑波大学医学専門学群卒業、1995年名古屋大学にて博士号(医学)取得。1996年米国ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程修了。愛知県がんセンター研究所、東京大学大学院医学系研究科寄付講座特任教授等を経て、2021年より現職。運動を欠かさず、適正体重を保ちましょう
体を動かすと大腸がんのリスクを下げることがほぼ確実で、女性では乳がんのリスクを下げる可能性があるとされています。
「循環器疾患などの予防にも身体活動は役立ちます。厚生労働省は18〜64歳の人は歩行やそれと同程度の運動を毎日60分、息がはずみ、軽く汗をかく程度の運動を毎週60分、65歳以上であれば強度を問わず、毎日40分を推奨しています。散歩や掃除、エレベーターを使わないなどでこまめに体を動かすといいですね」。
がんを含むすべての死亡と体格の関係を調べた研究では、肥満もやせすぎも死亡リスクを高めることが明らかになりました(下グラフ)。
〔肥満ややせはがんに関係する?〕
高度の肥満ではがんの死亡リスクがやや高まる
*BMI(体格指数)=体重(kg)÷〔身長(m)×身長(m)〕で計算する。社会と健康研究センター予防研究グループ「体格指数(BMI)と死亡リスク」を参考に作成日本の7つのコホート研究から抽出した女性19万人を平均13年間追跡したデータをもとに、BMI(体格指数)とがんや循環器疾患などの死亡リスクを計算したグラフです。
BMI23~24.9を1とした場合、「全死因」による死亡リスクのグラフはU字形の曲線になりますが、がんの死亡リスクはBMIによる差がほとんどなく、BMIが30.0~39.9という高度の肥満では約25%高くなることがわかりました。
なお、閉経後には肥満が乳がんのリスクになることが確実とされています。
がんでは閉経後の乳がんは確実に肥満によりリスクが上がります。大腸がんや肝臓がんもほぼ確実と考えられています。一方、BMI21未満でもリスクが上がります。
「ほかの病気のリスクも加味すると、女性はBMI21〜25になるように体重を管理するとよいと考えられます」。
国立がん研究センター がん対策研究所 予防研究部のホームページでは新しい知見がアップデートされています。また、前回の記事でご紹介した「
がんリスクチェック」もぜひ試してみましょう。
〔がんになりにくい生活習慣〕
5つの健康習慣でがんのリスクを下げる
1.たばこを吸わない・ほかの人のたばこの煙を避ける→がんになる人の3割程度は本人の喫煙や副流煙を吸うことが関係する。禁煙、そして受動喫煙を避けることはがん予防の第一歩。
2.飲酒は控えめに→がん予防のためにはアルコールを飲まないのが理想。男性で、1日当たり、日本酒1合(180ml)、ビール大瓶1本(633ml)、焼酎や泡盛0.6合(100ml)、ウイスキーやブランデーダブル1杯(60ml)、ワイングラス2杯(240ml)のいずれかを超える毎日の飲酒の習慣でがんのリスクが上がる。女性はさらに飲酒量を減らす必要がある。
3.食生活を見直す→塩分は成人女性では1日6.5g未満が推奨される。薄味に慣れることが重要。熱い飲食物は少し冷ましてから摂る。野菜や果物が不足しないことも大切。1日に野菜と果物を合わせて400グラム以上摂る(野菜を小鉢5皿、果物を1皿が目安)。
4.体を動かす→18~64歳の人は歩行やそれと同程度の運動を毎日60分、息がはずみ、軽く汗をかく程度の運動を毎週60分、65歳以上の人は、強度を問わず、毎日40分、体を動かそう。
5.適正体重を保つ→肥満でもやせすぎでもがんのリスクが上がる。BMI21~25になるように体重を管理するとよい。
●5つの健康習慣を実行するとがんのリスクが約4割下がる
1995年から99年に40~69歳の男女約8万人に5つの健康習慣の実施状況を聞き、5年間の追跡調査したところ、女性(約4万人)では、5つの健康習慣を実行している人は、全く実行しない、あるいは1つしか実行しない人に比べ、37%がんになるリスクが低くなっていました。
*5つの健康習慣を実践しない、あるいは1つのみ実践した場合のリスクを100とした場合Sasazuki,S.et al.:Prev.Med.,2012;54(2):112-116を参考に作成 イラスト/にれいさちこ 取材・文/小島あゆみ
『家庭画報』2023年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。