鎌倉幕府が崩壊して、南北朝の動乱が始まる頃書かれたといわれる『徒然草』。「つれづれなるままに、たわいもないことを、とりとめもなく書きつけたもの」と述べていますが、それどころか書かれている事柄は本質にぴたっと迫ってきます。時代、社会、人々、身の回りの出来事や物事……特に、人間の心、生き方・在り方について書かれている章段は一段と活気を帯び、共感して拍手したり……読むたびに惹かれる『徒然草』です。
選・文=加賀美幸子(アナウンサー)『徒然草』は読んでいると元気が出てきます。その時の気持に合わせて章段を探します。
「万(よろず)のことは頼むべからず」……時の権勢も、財産も、人の行為も、すぐに変わるではないか。だから何事も頼りにしなければ、恨んだり悲しんだりすることもなくゆとりの心が生まれてくる。身の置き方も、前後左右に余裕があれば、つぶれ砕けることはないじゃないか、それがゆとりというもの……と兼好法師は語ります。
心も体もゆとりがないと、他と争って自分を損なってしまう。ゆるやかにして柔らかな心でいれば、少しも傷つくことはない……「その通り!」と私はいつも嚙み締めます。
特に今、国内外とも不安定な時代だからこそ、じっくり、(いえ、徒然なるままにでも)読み続けたい『徒然草』211段です。
イラスト/髙安恭ノ介 ・
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