早期発見に役立つ根拠のある検診を受ける
中山富雄(なかやま・とみお)先生国立がん研究センター がん対策研究所 検診研究部部長。大阪大学医学部卒業。大阪府立成人病センター調査部疫学課課長、大阪国際がんセンター疫学統計部部長を経て、2018年より現職。がん検診の情報をわかりやすく伝える。著書に『知らないと怖いがん検診の真実』など。前回の予防編でも触れたように日常生活でがんを完全に予防することは難しいため、がんにかかっても長生きするには自覚症状のないうちにがんを見つけ、適切な治療を受けることが肝心です。
その有効な手段が「がん検診」ですが、国立がん研究センターがん対策研究所でがん検診の研究に取り組む中山富雄先生によると、日本のがん検診受診率は先進国の中で最低レベルだといいます。
「例えば、OECDの調査では、乳がんマンモグラフィー検診の受診率は28か国中24位(44.6パーセント)でした」。
そのうえ、近年はコロナ禍の外出自粛により、がん検診の受診控えが起こっています。
日本対がん協会が実施した調査によるとがん検診が推奨されている部位(子宮頸部、乳房、大腸、胃、肺)の2020年度の受診者数は前年よりも30.5パーセント減少していることが判明。
「この調査結果は早い段階でがんを発見するチャンスが失われたことを意味しており、少なくとも1万人以上の人が未発見の状態になると予測されています」と中山先生は危惧します。
利益と不利益を知ったうえで検診を賢く選択する時代に
この傾向は翌年も続き、国立がん研究センターが2022年12月に公表した「院内がん登録2021年全国集計」の速報値解析によると、がん検診が推奨されている部位の中で検診発見例が増加していたのは乳房のみで、子宮頸部、大腸、胃、肺ではやや減っていました。また、治療された早期がんも減少傾向にあることがわかりました。
同センターは、この結果だけでは検診の受診控えが起きているかどうかは評価できないとしているものの、新型コロナウイルス感染症に対する予防策やワクチン、治療薬が開発された現在では、コロナ禍前と同様に検診を受けるべきだと助言しています。
一方、がん検診の有効性に関する研究が行われるようになり、その科学的根拠が明らかになってきたことから検診のあり方も変わってきています。
「かつてはがんを早く見つけるために多様な検査をしたほうがよいとの考え方がありました。今でも健康を守ることに熱心な人たちはそう信じて実行しているでしょう。しかし、がん検診は万能ではなく不利益もあります。人によっては利益よりも不利益のほうが勝り、受けなくてもよいがん検診もあるのです」と中山先生は指摘します。
近年、医療界では過剰な検査や治療を避ける“Choosing Wisely(賢い選択)”という考え方が広がりつつあります。
これはがん検診についてもいえることで、検診のメリットとデメリットを知ったうえでがん検診を適切に受けることが大切です。
自分にとって賢い選択ができるよう今月はがん検診の正しい知識について取り上げます。
がん検診を正しく利用してがんによる死亡リスクを減らす
(1)目的
がんを早期発見し、適切な治療で死亡を減らす→多くのがんを見つけることが目的ではありません
(2)対象者
症状がない人→症状がある場合はすみやかに医療機関を受診します
(3)検診の受け方
利益が不利益を上回る検診だけを受ける→がん検診には不利益があることを知りましょう
(4)国が推奨する検診
子宮頸がん、乳がん、大腸がん、胃がん、肺がん→がん検診の効果は科学的な方法によって検証されています
取材・文/渡辺千鶴
『家庭画報』2023年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。