4月 可憐なスミレを卵殻のフラワーベースに
文=岡田 歩(造花工藝作家)
春爛漫。草木の花が一斉に溌剌と咲き出し、生命の息吹をいたるところで感じます。
木々の花に心を奪われ、ふと道端に目をやると、慎ましくも凛と足元に咲くスミレの花。その控えめな姿に想いを寄せ、イースターの飾り花をこしらえました。イースターの日は、「春分の日を起点に、最初の満月の日から1番目の日曜日」と決められています。
生命の象徴であり、イースターで「復活」を意味する卵の殻を花器に見立てた飾り花。聖骸布のイメージを重ね、卵の殻に小さく裁断した麻の布を糊で貼りつけています。キリスト教では、諸説ありますが、薔薇は「愛」と「美」、百合は「威厳」と「純潔」、そして、スミレの花は「謙譲」と「誠実さ」を象徴するといわれていて、中世の美術作品で頻繁にモチーフとして扱われています。
私は幼い頃にキリスト教系の幼稚園に通っていましたが、年中さんの時は、クラスごとに「ばら組」「ゆり組」「すみれ組」と、花の名前がつけられていましたので、その3つの花がキリスト教と縁のあることを自然と知っていました。
イースター礼拝の日は、教会の建物や庭の至る所に隠されている色とりどりのセロハンで包まれた卵を、宝探しのように見つけるのが楽しく、当時を振り返ると、イースターの意味をきちんと理解していたとは思えませんが、花の日やクリスマスと同様、子供心に大好きな礼拝のひとつでした。
日曜学校では、礼拝に沿った聖書の一節と共に、花々や鳥、動物や子供たちなどが挿し絵として描かれている綺麗なカードを毎週のようにいただいていたのですが、特に可憐なスミレの花の絵は、とても強く印象に残っています。
控えめなスミレではありますが、凛と花を咲かせるような力強さを際立たせたく、 イメージどおりの深みのある色になるように、いつにも増して、色を作り出す工程に試行錯誤を重ねました。スミレの花は非常に多くの品種があり、その数は百数十種類以上と聞きます。実際に「卵の花器にどのスミレの花を添えようかしら……」と調べてみると、花の色は紫だけでも微妙に異なる様々な色調があり、そのうえ、黄色や白に、斑や線の入り方も異なり、葉の形も多様性に富んでいるので、目移りしてしまいました。思いを巡らせた末、日本らしさをエッセンスとして作品に取り入れようと思い、日本各地に自生していて私たちが頻繁に目にする“ビオラ マンジュリカ”という品種のスミレから、イメージを膨らませました。
岡田 歩(おかだ・あゆみ)
造花工藝作家
物を作る環境で育ち幼少期より緻密で繊細な手仕事を好む。“テキスタイルの表現”という観点により、独自の色彩感覚と感性を活かし造花作品の制作に取り組む。花びら一枚一枚を作り出すための裁断、染色、成形などの作業工程は、すべて手作業によるもの。
URL:
https://www.ayumi-okada.com