天野惠子先生のすこやか女性外来 第12回(02)女性の平均寿命は87.57歳(2022年)。最期まで自分らしく生きたいと願う私たちの将来に、「認知症」という大きな壁が立ちはだかるかもしれません。しかし、「更年期からの心がけ次第でリスクは減らせます」と天野先生。まず「知る」、そして「予防する」――。認知症対策をお伝えします。
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今から始める認知症対策。恐れるより、まず知ることから
天野惠子(あまの・けいこ)先生静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事、NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。1942年生まれ。1967年東京大学医学部卒業。専門は循環器内科。東京大学講師、東京水産大学(現・東京海洋大学)教授を経て、2002年千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長。2009年より静風荘病院にて女性外来を開始。認知症は“老いに伴う病気”
脳細胞が死んだり働かなくなって記憶力や判断力が低下
80代前半女性の4人に1人が認知症に
●認知症患者の年齢層別割合(男女比較)『都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応』認知症対策総合研究事業(平成23~24年度)総合研究報告書をもとに作成認知症とは、さまざまな原因で脳の細胞が死んだり働きが悪くなったりして記憶力や判断力の低下などの障害が起こり、社会生活や対人関係に支障が出てくる病気。その状態がおよそ6か月以上続いた場合に診断されます。
上のグラフのように加齢とともに増え、女性は80代前半の約4人に1人、80代後半の約半数、90歳以上では約7割の有病率。
日本の認知症患者は約600万人(2020年)。2025年には約700万人(65歳以上の5人に1人)になると予測されています。
原因はさまざま。最も多いのは脳の一部が萎縮するアルツハイマー型認知症
アルツハイマー型が約7割、血管性が約2割
●認知症の内訳*その他の内訳/アルコール性0.4%、混合型3.3%、上記以外3.9% 『都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応』認知症対策総合研究事業(平成23~24年度)総合研究報告書をもとに作成認知症はいくつかの種類があり、起こり方も症状も異なります。その中で最も多く全体の7割近くを占めるのが、脳神経に異常が生じて脳の一部が萎縮して起こるアルツハイマー型認知症。
脳が萎縮すると海馬がダメージを受ける
●記憶のメカニズムと認知症の物忘れ日常的な出来事や勉強して覚えたことは一時的に海馬に保存され(短期記憶)、その後、大脳皮質に送られて情報として刻み込まれる(長期記憶)。脳が萎縮するアルツハイマー型認知症では海馬が真っ先にダメージを受け、昔の出来事は覚えていても新しいことを覚えられなくなる。物忘れや物事を覚えられないといった典型的な症状は、脳の海馬という器官の細胞の死滅によって起こると考えられています(上図参照)。
次に多いのが約2割を占める血管性認知症。アルツハイマー型認知症と血管性認知症を合併している場合も少なくありません。
●起こり方も症状も異なる 認知症の主な4種類日常生活に支障のない軽度認知障害(MCI)とは?
同年代に比べ物忘れの程度がかなり強いけれど日常生活に支障はない。このようないわば“正常と認知症の中間”の状態を軽度認知障害(MCI)といいます。
年間10〜30パーセントが認知症に進行するとのデータがある一方、運動プログラムの実施がMCIの認知機能向上に有効であるとの研究結果も出ており、この段階で対策を講じることが重要です。
*NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」では、女性外来を開設している医療機関(2018年現在約300か所)のリストを公開。
URL:
http://www.nahw.or.jp/hospital-info*「女性外来オンライン」(天野惠子先生主宰)では、天野先生ご自身が厳選した女性の健康の回復や維持に役立つ信頼性の高い情報を発信しています。
公式サイト「女性外来オンライン」:
https://joseigairai.online/YouTube
「女性外来オンラインチャンネル」はこちら>> 撮影/本誌・伏見早織 イラスト/佐々木 公〈sunny side〉 取材・文/浅原須美
『家庭画報』2023年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。