アンリ・マティス 希望の色と光 最終回(全6回) 世界中の人々の心を捉えて離さない20世紀を代表する画家、アンリ・マティス。作風や技法を常に変化させ、彫刻やステンドグラスを含め多くの作品を遺した偉大な芸術家が創作し、暮らした地を辿り、なぜ私たちがこんなにも彼の作品に惹かれるのかを探究します。
前回の記事はこちら>> マティスの人生を作品で辿る。約20年ぶりの大回顧展開催
まだ画家として十分な収入が得られなかった30代前半で妻と娘、息子2人の5人家族を支えていたマティス。パリ時代は頻繁に住居やアトリエを変え、子どもをボアンの両親の家に預けるなどしながら、懸命に絵画と向き合いました。
人生の後半で国民的画家の名声を得てからも、常に家族の問題や戦争、自身の病気などと格闘する日々が続いた彼が描き続けたのは、そうした暗さや苦労を乗り越える力を与えてくれる、明るく幸福な歓びでした。
世界の平和と安寧が望まれる今だからこそ鑑賞したいマティスの大回顧展が、東京都美術館で開催されています。
カトー=カンブレジ
青年時代までを過ごした北フランスは、淡い光が平地を覆う、農業と織物業が盛んな土地。
ニース
花や果物の色が溢れるマルシェ。正面の建物はマティスが暮らしたアパルトマン。
ヴァンス
マティスも飲んだであろう、健康によいとされる湧き水の噴水が随所にある中世の町。
マティス展
約150点の展示作品のうち、とりわけ《豪奢、静寂、逸楽》は、これまでほとんど外部に貸し出されたことがなく、もちろん日本初公開。
「マティスがポール・シニャックに習い、点描に挑戦した作品です。この作品の最初の購入者もシニャックでした。色と形を切り離すという、のちにマティスが到達した絵画とはまったく反対の技法で、彼の転換点として重要な作品です」(ポンピドゥー・センター オレリー・ヴェルディエさん)
「世界有数のマティス・コレクションを誇るパリのポンピドゥー・センター」の記事はこちら>>アンリ・マティス《金魚鉢のある室内》1914年ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielleアンリ・マティス《夢》 1935年ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielleアンリ・マティス《豪奢、静寂、逸楽》 1904年ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielleアンリ・マティス《ヴァンス礼拝堂、ファサード円形装飾〈聖母子〉習作デッサン》1951年カトー゠カンブレジ・マティス美術館 Photo musée départemental Matisse(DR)●マティス展2023年8月20日まで 日時指定予約制
東京都美術館
https://matisse2023.exhibit.jp/絵画に加え、彫刻、ドローイング、版画、切り紙絵、ロザリオ礼拝堂に関する資料まで、各時代の代表的な作品を一堂に展示。「マティスは彫刻家としても重要な作家。彼の作品を深く理解することができるドローイング(デッサン)も、ぜひじっくりとご鑑賞ください」(ヴェルディエさん)
撮影/小野祐次 取材・文/安藤菜穂子 コーディネート/大島 泉 協力/公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館 ポンピドゥー・センター 朝日新聞社 NHK NHKプロモーション アンリ・マティス財団(Succession H.Matisse)
『家庭画報』2023年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。