病状を知り、思いを話して医療者とともに治療を考える
若尾文彦先生(わかお・ふみひこ)国立がん研究センター がん対策情報センター本部 副本部長。横浜市立大学医学部卒業。1988年、国立がんセンター中央病院に入職。放射線診断部医長、がん対策情報センターセンター長などを経て、2023年より現職。信頼できるがん情報の発信と普及、がん対策評価などに取り組む。がんが疑われたとき、検査で確定診断が行われる
がん検診などでがんが疑われたとき、がんを疑う症状が現れたときは、病変(腫瘍)の有無、病変があればそれが良性か悪性(がん)か、どこまで広がっているかを検査で調べることになります。その結果、がんと診断された場合には、下図のようなプロセスをたどります。
【がん診療の流れ】
治療法を決め、治療を受けた後、経過を観察がんの治療法は、手術、放射線療法、薬物療法、痛みや心のつらさを治療する緩和ケアの4つで、組み合わせて行われることが多くなっています。
最初の治療から5年間(乳がんなど進行が比較的ゆっくりであるがんは10年間)は診察を受けながら経過観察します。その間に再発や転移が見つかったら、その治療を受けることになります。
がんの種類や組織型、進行度を知るのが治療選択の第一歩
がんと診断された後、治療を始めるまでには「最初に自分の病状を正確に知ることが大事です」と若尾先生。
多くのがんでは、大きさまたは深さ、リンパ節やほかの臓器への転移の有無、組織型(タイプや悪性度)などによって進行期(ステージ、病期)が決められています(図1)。まずは主治医にがんの種類(どこのがんか)、組織型、進行期を確認しましょう。
【図1:がんの進行期(ステージ/病期)の例】
がんの広がりの状況によって進行期が決められている0期:がんが粘膜内にとどまっている
Ⅰ期:がんが固有筋層にとどまっている
Ⅱ期:がんが固有筋層の下まで浸潤している
Ⅲ期:リンパ節に転移している
Ⅳ期:他の臓器に転移している血液がんを除くがん(固形がん)には、がんの大きさか深さ(深達度)、リンパ節への転移の有無、他の臓器への転移の有無などによって細かく進行期が決められている(上記は大腸がんのおおまかな進行期)。この進行期ごとに標準治療が定められ、診療ガイドラインとしてまとめられていることが多い。
これらの情報が重要なのは、ほとんどのがんでは、種類や組織型、進行期に応じた治療方法が学会などによって標準化されているからです。
これは多くの患者に科学的根拠(エビデンス)のある治療を行い、医師の個人的な裁量による、効果が低い、あるいはリスクが大きい治療を避けるのが目的です。
「標準化された治療(標準治療)は、科学的根拠に基づき、そのがんを専門とする多くの医師の合意を得られた治療法で、現時点では最善・最良の治療法です。“ふつう” “並”の治療ではありません」。
一方、最新治療というとよいイメージがあるかもしれませんが、「研究中の治療法で、効果や副作用がはっきりしているわけではないのです」。
最新治療は臨床試験による標準治療との比較のうえ、その効果が標準治療よりも高い、あるいは同等と認められたら新たな標準治療となります(図2)。
【図2:標準治療と最新治療】
標準治療は最良の治療。新しい研究的治療は標準治療との効果比較が必須標準治療は、がんの種類ごとに診療ガイドラインという形でまとめられており、インターネットや書籍で調べられます。乳がんなど一部のがんでは、患者向けの書籍が刊行されています。
【現状を理解し、治療や生活の見通しを立てる】
(1)がんの治療
進行期(ステージ/病期)ごとに標準的な治療が決められている
→自分のがんの進行期と、その進行期の標準的な治療を確認しましょう
(2)選択肢を理解して治療法を選ぶ
自分の思いを主治医に率直に話し、一緒に治療法を考える
→治療を決める主役は自分自身です
(3)悩みや不安は相談を
頼りになる、医師以外の医療者やがん相談支援センター
→家族や友人、主治医だけでなく、医師以外の医療者や、がん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センターも重要な情報源や相談先になります
明日は、がんと診断されたときの情報収集について、詳しく解説します。
イラスト/にれいさちこ 取材・文/小島あゆみ
『家庭画報』2023年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。