【松岡修造の健康画報】人間にとって皮膚とは何なのでしょう？

福岡県の産業医科大学勤務時代、「産業医大の松岡修造」と呼ばれていた椛島健治先生。熱くユニークなところは確かに似ています。　（松岡さん）スーツ、シャツ、ネクタイ、チーフ、靴／コナカ

京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授、医学博士　椛島健治先生

椛島先生はマラソンで3時間切りを達成したこともある実力派ランナー。品川駅から約4キロ走って颯爽とスタジオに登場され、松岡さんに「こんなかた、初めてですよ！」と驚かれていました。

椛島健治先生（かばしま・けんじ）
1970年岐阜県生まれ。1996年京都大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、京都大学、ワシントン大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、産業医科大学などでの勤務を経て、2015年より京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授。シンガポールA＊Starシニア主任研究員（兼任）。主な受賞に、日本研究皮膚科学会賞、日本免疫学会賞、日本学術振興会賞、文部科学大臣表彰など。近著に『人体最強の臓器 皮膚のふしぎ』がある。家族は美容外科医の奥さまとピレネーズ犬2頭。

皮膚病に苦しむ人のQOLを高めるために

松岡　先生はなぜ皮膚科学の道に進まれたのですか。

椛島　目に見えるからです。胃や腸や脳などと違って、直接見て診断できるのがいい。患者さんと一緒に喜びや悲しみを共有できますしね。

松岡　確かに、それができるのは皮膚だけですね。

椛島　ところが、皮膚科学は最近まで一段下に見られていたんです。「がんなど命にかかわる病気に取り組むのがアカデミアの使命」という風潮があって。でも、僕はそうは思いません。たとえば、ひどいニキビ跡に悩む人にとって、皮膚はQOLにかかわります。

松岡　わかります。僕も若い頃、ニキビが気になりましたから。

椛島　肌に引け目を感じて、したいこともできないような人が現実にたくさんいます。そういう人を助けるのも大事なことだと思うんです。

松岡　おっしゃるとおりだと思います。先生のご専門はアトピー性皮膚炎だそうですね。

椛島　はい。アトピー性皮膚炎の病態の解明と新薬の開発が専門で、2020年に1つ、2022年に1つ、薬の開発に携わりました。

前者は炎症を抑えつつも皮膚のバリア機能を保つ薬。アトピー性皮膚炎にはステロイド剤が効きますが、強いのを長く使っていると皮膚が薄くなったり、バリア機能が低下するためです。

後者はかゆみを抑える薬。かゆいところをかくと血が出て細菌が入るなどして大変なのですが、かゆい人にかくなというのは酷な話。なので、かゆくならない薬を作りました。そうした甲斐もあって、昔よりはだいぶ症状をコントロールできるようになったと思います。

松岡　素晴らしいですね。アトピー性皮膚炎を含め、皮膚のトラブルに悩んでいる人は周囲にもとても多いです。僕自身、何度か、ひどいじんましんに悩まされた経験があります。

人間にとって皮膚とは何なのでしょう？──松岡さん
「皮膚は僕らの命を守ってくれる“柔らかい鎧”です」──椛島先生

椛島　皮膚のトラブルをまったく経験したことがないという人は、世の中にいないんじゃないでしょうか。

松岡　そうかもしれません。そのわりに、僕らは日頃あまり皮膚に注目していない気がします。

椛島　多くの人がそうでしょう。でも、人間は皮膚が全部なくなったら、一瞬で死にいたりますからね。皮膚はいわば“柔らかい鎧”なんです。

松岡　柔らかい鎧。守ってくれているんですね。

椛島　人体に有害な化学物質や病原体などから守り、万が一、体内への侵入を許した際には免疫機構を発動します。また、皮膚がなければ感情表現もコミュニケーションもできません。

松岡　いわれてみれば、喜怒哀楽は皮膚で表しているのですね。

椛島　「40歳以降は人生が顔に出る」などといいますが、それは皮膚に人生のすべてが蓄積されるからじゃないかと思うんです。僕は、大工さんの日に焼けてごつごつとした手や、年配のかたの深く刻まれたしわなどを見ると、その人の歩んできた人生が感じられて、畏敬の念が湧いてきます。

松岡　年齢を重ねた皮膚も、若々しい皮膚も、そのかたの人生が表れていると思うと尊く感じますね。

椛島　そう、どちらも美しいです。