谷松屋戸田商店 季節の茶花 谷松屋十三代目当主の戸田 博さんが、茶席の花について語ります。7月の花は「白蓮(しろはす)」です。
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伊豆の山居にて
語り/戸田 博
一年を通して、いちばん好きな花といえば蓮。そしてもう少し早い時季、初夏の大山蓮華でしょうか。この2種の花が私にとっては双璧で、そういえばどちらも白い花です。
花に止まり、羽を休める蝶。山居の蓮池にて、幾重にも波のように広がる荷葉のあいだから、白い花がまっすぐに伸びている。その花の香に誘われて蜂や蜻蛉(とんぼ)、蝶などが集い、池の周りを飛び交う様は、さながら天上の楽園のようである。絵に描かれている蓮の花を見ても綺麗だなと思うし、生きた花を目の前にすると、その美しさに思わず手を合わせてしまうほど。
この季節にはどうしても欲しいと思い、伊豆にある山居の庭に大きな蓮池を造って楽しんでいます。3月頃には根起こしをし、植木屋さんとどう配置するかなどを相談しながら植え直し、開花を心待ちにしているのです。早いものは5月頃から咲き始めますが、盛りはやはり7月頃になります。
蓮といえば、
5月の花の回でお話ししたように経筒花入などに入れて、追善の茶に使う茶花のイメージがあります。追善イコール蓮ということから、蓮イコール追善と捉えがちです。しかし、これは茶の湯がもたらした弊害の一つといいましょうか、形骸化された観念です。
そんなことよりも今、庭に咲いている蓮が美しい、だからそれを入れただけ、でよい。本来、お茶の花ってそういうものですから。
咲き始めた白蓮と表情豊かな荷葉 一輪二葉の美しさを一直線に入れる白蓮
染付梅瓶(そめつけめいぴん)中国・明時代
庭の蓮池から白蓮ひと花を選び、中国の染付に入れる。梅瓶と呼ばれるやや肩の張った瓶子(へいし)の濃い青色が、蓮の白さをさらに際立たせている。口が小さな花器を使うことで、すっくと立ち上がる蓮の姿をより印象づける効果も。そんなわけで、今月は茶室にこだわらず、暮らしの中の空間で、今の季節いちばん美しいと思う蓮の姿を追っていこうと思います。
わが山居には親しい友が隣の敷地で暮らしています。稲葉 京(いなば たかし)という人物で、これまで話題にしてきた花の名手とは彼のこと。本連載で花を入れている戸田商店の小林 厚の師でもあります。私と偶然同い年で、思えばすでに30年ほどのつきあいになりますが、花のみならず、アートのこと、料理、部屋のしつらい、空間の捉え方など、私にとっては多角的に刺激を与えてくれる大切な友人です。今回は、彼の住空間の中で、小林が蓮と向かい合い、存分にその魅力を引き出してくれています。
清々しい山の気に満ちた朝、白や薄紅の花が咲き誇る庭の池から、稲葉くんと小林は二人して蓮を選びに行きました。久しぶりに再会した師弟が一緒になって手折った白い蓮のひと花。小林が丁寧に水揚げをし、蓮池の姿そのままに中国の染付に入れました。