体調を万全に整えて手術による合併症を減らす
金光幸秀先生(かねみつ・ゆきひで)国立がん研究センター 中央病院 大腸外科 科長。名古屋大学医学部卒業。名古屋大学医学部第二外科、愛知県がんセンター中央病院消化器外科部を経て、2013年より現職。全国の臨床試験を主導し大腸がんの治療法の確立に努め、『大腸癌治療ガイドライン』の作成にも従事する。がんの主な治療法には、手術、放射線療法、薬物療法があります。これらは「3大治療法」と呼ばれています。
単独で行われるだけでなく、「集学的治療」といって、より高い治療効果を得るために複数の治療法を組み合わせて行われることもよくあります。
がんを根治(完全に治す)させる、その可能性を広げるうえで最も重要なのは、がんのある部分をできるかぎり取り除くことです。その唯一の方法が「手術」です。
そのため、臓器や組織に腫瘍ができる固形がんの標準治療(科学的根拠をもとに専門家の合意が得られた現時点で最良の治療法)では、手術が優先されます。
「早期がんはもちろん、進行がんでもステージ3までは根治を目指した手術が行われます。手術前に薬物療法でがんを小さくしてから手術で取り除くこともよくあります。ステージ4や再発がんになると根治を目指せる手術が少なくなってきて、疼痛などの症状を和らげることが目的となる緩和手術が増えてきます。
しかしながら、がんの種類によってはステージ4や再発がんでも根治を目指した手術を行うことは可能です。例えば、大腸がんはステージ4でも手術をすれば一定の確率で完全に治せるチャンスを作り出せるため、根治手術ができるかどうかを検討します」と金光幸秀先生は手術の目的について説明します。
体の負担や合併症の少ない低侵襲手術が主流に
がんの主な手術方法は、「開腹・開胸手術」と「腹腔鏡下・胸腔鏡下手術」の2種類に大別されます。近年は、体に負担の少ない低侵襲手術である「腹腔鏡下・胸腔鏡下手術」が主流です。
大腸がんを例にとると、日本内視鏡外科学会の調査では80パーセントが腹腔鏡下手術、20パーセントが開腹手術でした。最先端手術である「ロボット支援下手術」は腹腔鏡下・胸腔鏡下手術の一種として位置づけられており、今後は健康保険の適用が認められる領域からこの手術に置き換わっていくと予測されています。
低侵襲手術のメリットの一つは、手術の創(きず)が小さいことです。
「手術創が小さければ小さいほど創による合併症が減り、特に創口から細菌に感染することがなくなりました。入院期間は開腹手術と比べて1日程度しか短くなりませんが、離床を含め、術後の回復が早いです。手術創が大きいと心肺機能もダメージを受けやすくなるので、高齢者ほど低侵襲手術のメリットが大きいといえるでしょう」。
【がんの3大治療法の一つである手術の目的や方法を知る】
(1)手術の目的
「根治を目指した切除」と「緩和を目的とした切除」がある→早期がんから進行がんまで、その多くは根治を目指した切除が行われます
(2)手術の方法
「開腹・開胸手術」と「腹腔鏡下・胸腔鏡下手術」がある→体への負担が少ない「腹腔鏡下・胸腔鏡下手術」が主流になっています
→近年は「腹腔鏡下・胸腔鏡下手術」の一種である「ロボット支援下手術」が選択されることも増えてきました
(3)手術の待機期間
手術決定から実施までは3~4週間→合併症のリスクを減らすために生活習慣病などの精査・コントロールも必要です
→治療以外でも気がかりなことがあれば担当医に遠慮なく相談しましょう
※次回へ続く。