訳)池の水面のさざ波を照らす月光。その月日を数えてみると、今宵こそ秋の真ん中にほかならないのだった
「月なみ」は、月日と波の掛詞。「拾遺(しゅうい)和歌集」は紫式部や藤原道長の時代に成った、第三番目の勅撰和歌集。一方、源順(みなもとのしたごう/911〜983年)は、そのひとつ前の「後撰和歌集」の撰者(せんじゃ)、すなわち「梨壺(なしつぼ)の五人」の一人である。
選・文=渡部泰明(日本文学研究者)屛風の絵に添えられた和歌。ここでは、池のある邸宅で人々が月見の宴会をしている図が描かれていた。この屛風は内裏を飾るためのものである。壮麗な庭の池の水面にさざ波が立ち、そこに月の光がきらきらと反射している。
イラスト/髙安恭ノ介ちょうど今宵は八月の十五夜、つまり七月に始まり九月に終わる秋の真ん中。なるほど、とびぬけて明るい訳だ。「もなか」は時期的に中央だ、というだけではなく、真っ盛りだ、最高だ、という賛辞でもあるのだろう。後に丸い和菓子の名に転用された。
池は豪奢な庭園の象徴だから、池に映る月を褒めることは、その邸宅の主人を称えることになるだろう。内裏に捧げる屛風の和歌として、この上なくふさわしい。和漢に通じた学者歌人、源順ならではの歌だ。
『家庭画報』2023年8月号掲載。
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